動物病院から学ぶトレーニングの必要性
第3回 「噛み犬」と呼ばれ「癒し犬」と言わせた飼い主の物語
動物病院にてしつけ教室を開催しているドッグトレーナーさんが、来院されるペット達と接する中で改めて気付いたトレーニングの重要性を教えてくださいます。
保護施設に「リオ」と呼ばれた1歳の中型MIX犬がいました。その子はたまたま私が保護施設の見学に訪れた時に出会いました。
そこの保護施設には10頭の犬が新しい家族を待っている状態でした。皆、人が大好きでふれあいでも愛想よくおもてなしをしてくれていました。
ですが「リオ」だけはハウスの中に入ったまま『注意』と書かれた張り紙がされ、ふれあいをする事すらできませんでした。
施設の方に聞くと、「リオ」は家族に対して攻撃的で、何度も何度も家族がけがをして、もう触れなくなり手放されたそうです。怪我も全治1か月や2か月の大けがをしているとの事でした。施設の方も悩まれている状態でのご縁で、ボランティアでトレーニングをさせて頂くようになりました。
もちろん成功するかどうかはわかりませんが、「リオ」が変わってくれる事を信じて、自分を信じて、改善プログラムをスタートしました。
散歩は引きが強く自分の行きたい方向にしか歩かず、リードを軽く引っ張るとこちらに向かって「唸る」「噛みつこうとする」状況でした。また、ご飯の時間には、食べ終わると食器を守って、近づいただけで「飛びついて噛む」という問題がありました。
けれども矯正トレーニングを重ねて、施設の方にも噛みつかなくなり、指示を出してもしっかりとコマンドをきけるようにまで改善できるようになりました。
ですが里親募集をかけてみると、やはり今までの経緯、不安がネックになり、なかなか声がかかる事がありません。声がかかっても飼い主様との相性が合わなかったりとしておりました。
しかし数か月後、声がかかり里親になりたいとの連絡が入ったのです。
その方は、その施設に何度も通われていて里親になる子をさがしていたのですがなかなか出会えず、行く度に「リオ」だけがハウスにいる事が気になっていたのです。状況を聞いたそのご夫婦がすべてを受け入れて、里親になりたいと申し出がありました。
何度もスタッフと話し合い、大丈夫なのか検討した結果、ご夫婦に譲渡が決定しました。
もちろん施設から卒業する前に何度もトレーニングを重ねて、日帰りでお家にいったりと回数を重ね、新しい家族の一員となりました。何度か噛まれてしまったものの、めげずにリオと向き合い続けて下さりました。
半年後、「お話しがしたい」とご連絡があり会う機会があったのですが、会うまではダメな話だったらどうしよう。。。と不安だらけでした。ですがお話しの内容は「この子はセラピー犬になれませんか?」というご相談でした。散歩中に老人に会うと、すごく大人しく嬉しそうに触ってもらえるリオをみて、活躍できる場所を作りたいと思われたのです。
人に触られる事すら苦手だったリオがここまで変われたのは、オーナー様がリオと向き合った結果です。そしてそれに対して受け入れたリオも大きな成長です。まだまだ改善点はありますが、新しい目標ができた事で新しい発見ができると思い、セラピー犬の挑戦を賛成しました。
今はまだセラピー犬としては活躍していませんが、ご近所では「癒し犬」と言われ大人気だそうです。そのお話をしているオーナー様は本当に幸せそうで、側にいるリオもとても優しい表情にかわっていました。
施設に預けられる犬達の理由は様々です。噛む、吠える、引っ越し等人間の勝手な状況で手放す飼い主は今でも後を絶ちません。
ですが私がトレーナーとしてできる事は、その問題を一緒に改善できるように、新しい飼い主様に、犬を理解して楽しく過ごして頂けるようサポートできたらと思っています。犬任せのトレーニングではなく、コントロールする人とのトレーニングが一番重要です。
今現在、何かの問題に直面している方はまだあきらめないでくださいね。愛犬と一緒にしっかり向き合えば必ず改善されます。
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プロフィール
著/高加奈絵
トレーナー
大阪動物医療センターでしつけ教室を開催。8年間、訓練所にて問題行動の改善、トレーニング、ドッグスポーツに関して経験を積む。
■取得資格
PSGドッグトレーナー、アニマルアロマ、トリマー
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