動物病院から学ぶトレーニングの必要性

第2回 「ビキ」が教えてくれたこと

動物病院から学ぶトレーニングの必要性

動物病院にてしつけ教室を開催しているドッグトレーナーさんが、来院されるペット達と接する中で改めて気付いたトレーニングの重要性を教えてくださいます。


ひょんな事から出会ったチワワの「ビキ」。私が出会った時は8歳の男の子でした。

静かにできない、飼い主さんのそばから離れるとずっと吠えていて留守番ができないからと、8年間つれそった飼い主から手放されたビキ。
もちろん最初は愛情いっぱいで育ててもらい幸せな生活をしていました。
ですが赤ちゃんができて、自分に向けられていた愛情が赤ちゃんに向けられ、環境がかわると犬も不安になって問題行動を起こす子が多いのは数少なくありません。
その時期からビキは今まで以上に吠えるようになり、留守番ができなくなっていきました。
また、飼い主もビキに対してきつくあたる事ばかりが増えていってしまったのです。

悩んだ末に「赤ちゃんと私のストレスになるから」と処分をする決断に至りました。

どうしてもこの子を幸せにしてあげたい、新しい家族をみつけてあげたいと思い、お預かりして新しい家族を見つける為にトレーニングを始めました。
最初は人の表情を伺い、少しでも怒りの感情を出すと緊張して、目の瞳孔が開き興奮状態になり、その人に対して吠え続ける状態でした。
ハウスにも入った事がなく、ハウスに入ると一日中吠え続け、声がかすれるまで鳴き続けていました。

トレーニングは2、3日で解決できるわけではなく、時間をかけて継続する事が大切です。
ビキと毎日トレーニングを続け、ほんの少しずつハウスに慣れて一人になる事を教え、基本的なコマンドの指示で不安な時や緊張した時もリラックスして対応できるように練習していくと、2か月もすると穏やかな表情になり、夜はハウスで寝られるようになりました。
ストレスで抜けてしまっていた毛も生え始め、精神的にも体の調子も改善がみられてきました。

そこでいざ里親を探し始めると、色んな試練がビキと私には訪れました。
8歳という高齢犬、また人に対して吠えるという課題、そしてトラウマから不安になると自傷行為をしてしまう事があり、声はかかりますがやはりそこがネックになり最後までたどり着く事ができません。

そんな時、ご縁があり年配のご夫婦の方たちが、トレーニングをしているときに声をかけて下さり、お話しをしていて「是非、家族に迎えたい」と言って頂いたのです。
もちろんすぐにお渡しする事はできません。
お互い高齢という事、精神的にも問題行動があるというリスクも含めて、何度も何度もお話しを重ねて「すべてを受け入れて家族に迎えます」と力強く私に伝えて頂きました。

それから1か月近くトレーニングを重ねて、正式に家族になり、送り出す事ができたのです。
里親に出す時は少し寂しさもありましたが、ご夫婦の嬉しそうな姿、ビキも同じように嬉しそうにしている姿をみて、安心して送り出せました。
ビキもご夫婦の事が大好きで、一緒にいるときはずっと穏やかで幸せそうでした。
トレーニングの事もいつも一生懸命になって頑張って続けて頂きました。

それから3年が経ち、ビキは腫瘍が見つかり闘病生活を終えて、ご夫婦に見守られながらお空へ旅立っていきました。

ビキが教えてくれた事。
トレーニングは根気が必要で感情を犬に出しすぎない事、里親を探す事の大変さ、里親を受け入れる事の大切さ、犬も頑張れば変われる事など数えきれないくらいあります。

ただ一番教えてくれた事は、トレーニングは犬だけが変わるものではないということです。

人も変わらなければ変化が起きないのです。
もちろん時間はかかります。
ですが自分の愛犬を信じて一緒に理解しあえる関係作りをしてあげて下さい。
しっかりと愛犬と向き合えば必ず光はみえてきます。

せっかく出会ったかけがえのない家族です。最後まで責任をもって飼える飼い主が増える事を願っています。

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プロフィール

著/高加奈絵
トレーナー
大阪動物医療センターでしつけ教室を開催。8年間、訓練所にて問題行動の改善、トレーニング、ドッグスポーツに関して経験を積む。
■取得資格
PSGドッグトレーナー、アニマルアロマ、トリマー

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