ドッグトレーナーの世界一周わんっ!ワールド!!
Vol.21 南アフリカ 狼の保護施設で考えた狼と犬の違いについて
299naviコラム「ペットと一緒に暮らすために」の著者 山形祝代さんがご結婚され、現在ご夫婦で世界を旅しています。
そこで出会った世界の犬たち。実際に目で見たり体験したことを、日本で約15年間、ドッグインストラクターとして仕事をしてきた経験も踏まえ、リアルな世界の犬のことを伝えてくれるコラムです。
今回も、前回に引き続き、2017年5月末からの約2週間旅した南アフリカでの出来事です。
前回も書きましたが、南アフリカは、他のアフリカとは比べ物にならないくらい現代的で、町にはビルが建ち並び、大きなショッピングモールもたくさんありました。
そんな現代的な南アフリカでも、豊かな自然は残っていて、動物と触れ合える場所がたくさん。
様々なアクティビティも充実していました。
動物を保護している施設も数多くあり、私達もいくつか訪れました。
今日はその中の1つ『Wolf Sanctuary』(狼の保護施設)を訪れたことについて書きたいと思います。
その施設は『プレッテンバーグベイ』から15キロ程離れた場所にありました。
狼の保護がメインですが、狼犬、ハスキー犬、草食動物や小動物とも触れ合える施設です。
入場料は1人100ランド。当時のレートで日本円にすると850円程です。
ウォルフサンクチュアリ
別料金を払ってガイドを雇うと柵の中に入って触れ合えたのですが、生憎ガイドがおらず、自分達で柵の外から自由に見学することにしました。
入り口を入ってまず出迎えてくれたのは、狼犬でした。
狼犬とは狼と犬との混血種を指します。
狼と犬とのパーセンテージ、どの犬種とかけるかなどで、種類は様々です。
最初に出迎えてくれた狼犬2頭は、私達を見るやいなや、私達から1番近い柵の端まで来てくれました。
喜びの表情と共に、身体を柵に押し当て、人に撫でてもらうことが気持ち良いと知っているかのようでした。
この2頭に関しては犬の血の方が濃いのでしょうか?反応が犬寄りで人懐こそうな印象を受けました。
出迎えてくれた狼犬
しかし、別の柵の中にいた狼犬は、ワンワンと吠えながらずっと、本当に長い時間走り回っていて、体力が有り余っている印象を受けました。
狼は遠吠えはしますが吠えることはないので、この吠える行動は犬の性質から来ているのでしょうか?
また、人が近付いても無関心で、どちらかと言うと、近付いて欲しくないような感じでした。
狼犬
その隣にはハスキー犬の柵があり、ハスキーも私達が近寄ると近くまで来て、撫でて欲しそうにしていたので、撫でてあげると気持ち良さそうにし、私達が離れるまでその場を離れませんでした。
ハスキー
その向かいには、狼の群れごとの柵があり、柵の前には、その群れの紹介看板がありました。
柵の前にある狼の群れの紹介
狼は私達が近付いても反応することなく、基本は無視しマイペースに過ごしています。
意図的に視線を合わせず無視し、無関心を装っているようにも感じました。
無関心な狼
柵の近くで休憩している狼に近づいた時は、柵を挟んでいるにも関わらず、距離感が不快だったのか、静かに立ち去ってしまいました。
犬の祖先は狼だと言われています。
ですので、狼と犬の共通する点もたくさんありますが違う点も多いです。
ちなみに狼に1番近いDNAを持っているのは、柴犬なのだそうです。柴犬のあの独立心が強いのはそういう理由からなのでしょうか。
外観の違いももちろんありますが、色々と調べた結果私が思う狼と犬との最大の違いは2つ。
①野生(狼)か、家畜(犬)か。
②成長段階で現れる臨界期の違い。
です。
まずは①野生か家畜かという点ですが、
野生では、厳しい自然を生き抜く為に、正確な状況判断が出来ること、物事を覚えることはとても重要になってきます。
ですので、この点では狼の方が犬よりも勝っています。
また、厳しい環境を生き抜く為の運動能力や感覚機能、警戒心も狼の方が犬より優れています。
一方、家畜化されているということは、人間に依存して生きています。
人間から、食べ物や安全な寝床など、生きる為に必要な様々なものを与えられ生きています。
と言うことは、家畜化された動物が生きていくのに重要な要素は、人間が握っています。
ですので、犬は人間の行動に注目し、言うことに耳を傾け、時には自分の判断よりも人間の判断を優先したり、判断を委ねたりすることがあります。
これは、犬が他の動物よりも人間に注目し、人間の言うことを理解してくれやすい理由の1つです。
しかし狼が生きて行くのに、人間は関係ありません。彼らに、人間の行動に注目して指示を仰ごうなんて考えはありません。
その為、狼に人間の出した指示に従うよう教えることは、非常に難しいのです。
また、人間との関係を友好に保つことも家畜化された状況で生きて行くにはとても大切なことです。
犬は人間に対してフレンドリーな態度をとりますが、狼は人間を無視する傾向にあるのもこの為です。
②成長段階で現れる臨界期の違い
これは、2013年に発表されたマサチューセッツ大学のロード氏の論文によるものです。
それによると、狼の社会性発達の臨界期は、生後2週~4週程。
一方、犬の社会性発達の臨界期は生後4週~8週程。
この時期に接触したものは、生涯において親しさを持ち続けます。
ですので、将来起こるであろう様々な経験をさせる『社会化』をさせるのに最も適した時期です。
しかし、社会性発達の臨界期を過ぎて、初めて接触したものには、恐怖反応を示してしまうそうです。
ロード氏が7頭の狼と43頭の犬で実験した結果、犬はこの時期に、90分間だけでも飼い主や他の動物に接触させておくと、将来相手を恐れたりしなくなりました。
しかし、狼は生後3週齢前に24時間接触させて、やっと同様の警戒心を解く効果が、得られたそうです。
犬は4週目から飼い慣らす事ができても、その時期、狼は既にそれが困難になります。
狼と犬は非常に良く似ているようですが、この2点の違いを見ても、全然違う動物だと言えるでしょう。
狼と犬の混血種である狼犬もそんな狼の血が入っているのだから、家庭で飼うには向かないことは一目瞭然です。
犬と似ているからといって、狼犬と犬はまったく違う動物です。
こんな言い方をすると語弊がありますが、狼犬は狼と同様、見るだけに留めておくもの。
世界にも日本にも狼や狼犬を見ることが出来る施設があるので、会いたい人は訪れてはいかがでしょうか?
たまにテレビで狼犬が紹介されていますが、間違っても家庭に迎え入れようなんて、思わない方が良いようです。
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プロフィール
磯崎 祝代
専門学校にて、犬の学習理論やトレーニングについて学んだ後、アシスタントを経て独立し、DOGECO(株式会社do)を設立。動物病院でのしつけ方教室の開催、訪問によるトレーニング、シッター、犬と楽しめるイベント企画運営、犬の幼稚園の運営、専門学校や高校生にむけた授業、コラムの執筆などの業務を行う。
13年運営してきたDOGECOを解散し現在は主人と一緒に世界を旅行中。今まで経験を踏まえ私の目で見た世界の犬のことをお伝えできたらと思います。
Blog→旅やねん(http://ason-de-kurasu.com/)
Facebook→旅やねん(https://www.facebook.com/asondekurasu/)
instagram→japanese_dog_hana
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