ドッグトレーナーの世界一周わんっ!ワールド!!
Vol.39 ポルトガル刑務所が経営するドッグホテル
299naviコラム「ペットと一緒に暮らすために」の著者 山形祝代さんがご結婚され、現在ご夫婦で世界を旅しています。
そこで出会った世界の犬たち。実際に目で見たり体験したことを、日本で約15年間、ドッグインストラクターとして仕事をしてきた経験も踏まえ、リアルな世界の犬のことを伝えてくれるコラムです。
2018年3月後半から5日間、ポルトガルを旅しました。
ポルトガルは、リスボンとその周辺の町にしか行っていませんが、5日間ホステルで自炊し、現地の食材を使ってポルトガルの名物料理をつくり、楽しみました。
塩漬けにされたタラやオイルサーディン、また伝統的な羊のチーズは絶品でした。
また古い町並みが残る旧市街がかわいらしく、フリーマーケットや市場も至るところで開催されているので、散歩するだけで楽しいところでした。
リスボン
そんなリスボンの郊外に刑務所が運営するドッグホテルがあり、犬のケアを通して受刑者の心を更生させるプログラムがあると聞き、興味を持ち訪れました。
そこで今回は、リスボン郊外にある刑務所が運営するドッグホテルについて書きたいと思います。
刑務所が運営するドッグホテルは、モンサント刑務所(Estabelecimento Prisional de Monsanto)に所属し、刑務所の隣で受刑者達が運営しています。
住所を調べると、私達が泊まっている宿から4、5キロ程の距離にあったので歩いて行くことにしました。
途中、観光名所の1つとなっている水道橋を見たり、ポルトガルの名産品コルクの原料になる木が生えている林を通ったりして、1時間30分程でドッグホテルに到着しました。
ドッグホテルの看板
奥まった入り口で、ドッグホテルのスタッフが迎えてくれました。
彼は英語が堪能で、施設を周りながら詳しく様々なことを教えてくれました。
この施設は昔、養豚場でした。
昔は豚小屋だったパネル
それを改築して現在はドッグホテルになっています。
ですので、敷地はとても広く、最大で70頭を収容することが可能だそうです。
常時だいたい20頭から30頭の犬を預かっているそうで、満員になることはないようです。
日本では、お正月やお盆の時期、大型連休の時期にペットホテルは混雑します。
特に混雑する時期はありますか?と質問しましましたが、季節や行事により犬の頭数が増えたり減ったりはないようです。
ヨーロッパでは、休みの日も犬と一緒に旅行に出掛けることは一般的だからかも知れません。
預けられている犬達は、1頭ごとに広い部屋を与えてもらえます。
同じ家で飼われている犬達に限り、飼い主が希望すれば同じ部屋で過ごすことが出来ます。
部屋はコンクリートですが、飼い主がベットや毛布を持ち込むことも出来るので、部屋を快適にカスタマイズしてあげることも可能です。
犬が泊る部屋
犬舎
ご飯は、いつも食べている物を持ち込むことも出来るし、お金を払えばペットホテルが常備しているドッグフードを与えることもできます。
私達が訪問した時はお昼過ぎで、ほとんどの犬達は、野外のドッグランに放してもらっていました。
ドッグランも1頭1頭区切られたプライベート空間になっていました。
1日中、室内にいるよりも外に出る時間があるのは、犬達にとって気分転換になります。
外のスペース
預かり犬
ほとんどの犬達が野外で過ごす中、2頭だけ室内にいる犬達がいました。
理由を聞くとこの2頭は脱走癖があり、以前預かった時に脱走して、その後数人で周辺を探し回り、大変な目にあったそうです。
そこで飼い主に了承をもらい、室内の部屋だけで過ごしてもらっているそうです。
確かに、この犬達のジャンプ力は素晴らしく、どんなに高い壁でも、どうにかして乗り越えてしまうそうです。
ジャンプして脱走するから個室からでれない犬
犬が体調不良になった時には、獣医さんが2日に1回やってくるので、その時に対応するのだそうです。
また、トリミングサービスもあり飼い主さんがオプションに申し込めば、お返しの時にトリミングをして返すことも可能です。
施設を見ながら一連の説明を聞き、犬達のことを良く考えた良いペットホテルだと思いました。
このペットホテルで犬を1日預かってもらう費用は犬の大きさや犬種に関わらず、1日10ユーロ(1,300円)だそうです。
1ヶ月連続で預けると25%の割引きになります。
お世話するスタッフは常時2人で、この設備を考えるとかなりリーズナブルだし、近くにこんな施設があるなら、預けたいと思う施設でした。
施設を見ながら、一通り説明を聞いた後、彼が受刑者だと聞き、驚きました。
彼以外のスタッフの姿を見ていなかったので、今の時間帯は、朝のお世話が一段落した所だし、受刑者の人達は休憩にでも行っているのかと思っていたからです。
普段は2人体制で仕事をしているのだそうですが、もう1人の受刑者が家に帰っているので、その期間は1人で仕事を行っているそうです。
ポルトガルでは軽犯罪の受刑者は、2ヶ月に1週間自宅に帰ることができます。
ドッグホテルにも警備の人は普段はおらず、何かあった時だけくるので、普段は受刑者のみで運営しています。
受刑者が暮らす家は、ドッグホテルの敷地内にあり、家の中も見せてもらいました。
ベットにトイレ、お風呂とシンプルな作りですが、キッチンもあり自分で調理することも可能です。
テレビもないし、もちろん携帯電話やパソコンも持つことは出来ません。
それでも逃げようと思えばいつでも逃げれる環境です。
それでも逃げないのは、ドッグホテルで働けるのは軽犯罪者で、しかも模範囚のみだからだそうです。
逃げて重い罪になるよりも、今の比較的自由な生活を続け、真面目に刑期を終了した方が彼らにとっては得なのです。
ペットホテルでの仕事に対して支払われるのは、1日につき2ユーロ(260円)で、このお金は出所後の生活資金になります。
従事する仕事は、必ずしも希望通りにはいきませんが、複数ある仕事の中から選んで希望を出すことができます。
ここドッグホテルの他にポルトガルコーヒーのマシンメンテナンスや、コーヒーをブレンドする仕事もあるそうです。
インターネットでリスボンを調べた時にでてきた、受刑者が運営するドッグホテル。
インターネットの記事では、犬をお世話することで、受刑者の心の健全もはかれ、更生にも一役かっていることをアピールしていました。
しかし実際に訪れ受刑者の話しを聞くと、この施設で働けるのは暴力や強盗、殺人などの重犯罪者ではなく、横領や詐欺などの軽犯罪者でしかも模範囚です。
犬のお世話をすることで犯罪者の更生と健全な心を育むというよりは、犯罪者の仕事の確保と、近隣住民への刑務所への理解とサービスという面が大きいと思いました。
現実は実際に訪れてみないと分からないとつくづく思った、今回のドッグホテル訪問になりました。
しかし、さすが先進国と言われているヨーロッパ。
犬に配慮したドッグホテルは素晴らしく、日本でもこのような施設が増えると良いなと思いました。
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プロフィール
磯崎 祝代
専門学校にて、犬の学習理論やトレーニングについて学んだ後、アシスタントを経て独立し、DOGECO(株式会社do)を設立。動物病院でのしつけ方教室の開催、訪問によるトレーニング、シッター、犬と楽しめるイベント企画運営、犬の幼稚園の運営、専門学校や高校生にむけた授業、コラムの執筆などの業務を行う。
13年運営してきたDOGECOを解散し現在は主人と一緒に世界を旅行中。今まで経験を踏まえ私の目で見た世界の犬のことをお伝えできたらと思います。
Blog→旅やねん(http://ason-de-kurasu.com/)
Facebook→旅やねん(https://www.facebook.com/asondekurasu/)
instagram→japanese_dog_hana
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