ドッグトレーナーの世界一周わんっ!ワールド!!
Vol.41 ドイツの動物保護施設ティアハイムを訪れて知った殺処分の現状
299naviコラム「ペットと一緒に暮らすために」の著者 山形祝代さんがご結婚され、現在ご夫婦で世界を旅しています。
そこで出会った世界の犬たち。実際に目で見たり体験したことを、日本で約15年間、ドッグインストラクターとして仕事をしてきた経験も踏まえ、リアルな世界の犬のことを伝えてくれるコラムです。
2018年5月初旬から5日間ドイツを旅しました。日本への帰国も迫っていたので、ベルリンとその周辺に絞って観光しました。
期間は短かったけれど、滞在中はずっと地元の人の家にお世話になり、話す機会が多かったのでドイツのことを沢山知ることが出来ました。
ベルリンは首都の割には珍しく、物価が安い町でした。また噂に違わぬドイツ人の真面目さを感じることも出来ました。ただ、ドイツ発祥の伝統菓子、「シュトーレン」と「バームクーヘン」は日本の方がおいしかったです。
本場ドイツのバームクーヘン
ベルリンには世界最大の動物の保護施設「ティアハイム」があります。最初はそこを訪れる予定だったのですが、私達が訪れた日は定休日だったので、違う施設を訪れることにしました。
その施設は、ベルリンからバスで2時間程行ったドレスデンという、シュトーレンで有名な町にあるティアハイムです。
そこで今回は、動物先進国と呼ばれるドイツの動物保護施設「ティアハイム」について、ティアハイムのスタッフから聞いた話を踏まえて書いていこうと思います。
ドレスデンのティアハイムは町の郊外にあり、鉄道の駅前から路線バスに乗り、そこからさらに歩いて30分程の森の中にありました。
ドレスレンにあるティアハイム入り口
周りに家はなく、木に覆われていてあまり犬の鳴き声を気にしなくても良い立地でした。中の入るとティアハイムで4年働いている女性スタッフが、施設を案内しながら様々なことを教えてくれました。
ここで働くには、特別な資格や試験などはなく、面接のみで採用されるそうです。この施設は最大で犬が40頭、猫部屋が4つと他にうさぎやモルモット、マウスも収容できるようになっています。
ここは、ドイツにしてはそれほど大きい規模の施設ではないので、合計8人のスタッフが8時から16時、12時から20時の2交代制で勤務し、施設にいる動物のお世話、犬のトレーニング、レスキュー、新しい飼い主さんの募集、譲渡などを行っています。
ティアハイムに動物が運び込まれる理由は様々です。
例えば
・飼い主が病気になってこれ以上飼えない。
・飼った時に大型犬がこんなに大きくなるとは思っておらず、大きくなったら手にあまり飼い続けることが不可能になった。
・近所からネグレクト(飼育放棄)の通報を受けてレスキューした
など、日本での理由と同じようなものでした。
ティアハイムに自分で犬を連れて行くと養育費を払う必要があります。動物の種類、犬種によって違いますが、毎月だいたい150ユーロ(2万円)程だそうです。悪質な飼い主は経済的な理由から、山やティアハイムの前に動物を捨てて行くこともあるそうです。
しかしそういった場合でも飼い主の特定をすることはなく、収容するそうです。
現在のドイツのマイクロチップの普及率と、それに伴い飼い主を特定するのかどうかの質問をするのを忘れてしまいました。
しかし、森に捨てるような飼い主の元に犬を戻しても犬が不幸になる、そんな飼い主に養育費を払うことを請求してもすぐに応えてくれるケースは少なく、その交渉に時間を使うのは無駄、などの理由からマイクロチップの有無に関わらず、飼い主さんを特定することはしていないのかも知れません。
マイクロチップの普及により今後、飼う前によく考えて、飼えなくなった時もどこかに捨てたりせず、自分でティアハイムに持ち込む飼い主が増えることでしょう。
私達が今回ベルリンでお世話になったホストから、ドイツではクリスマスに子犬をプレゼントすることが多く、クリスマスのあとに犬がティアハイムに持ち込まれ、その時期に施設の犬が増えると聞いていました。そのことを質問すると、そのような季節の変動はなく、捨てられる動物は年間通して同じくらいだそうです。
ティアハイムに来る犬はまず避妊去勢手術を行います。その後、2週間ぐらい様子を見て、その動物のキャラクターを見極めてから、インターネットに載せたり、ポスターを作って新しい飼い主を探しはじめるそうです。
飼い主募集のチラシ
私達が訪れた時に、小型犬が1頭インターネットに載せる写真を撮影をしていました。
動物達は新しい飼い主さんが見つかるまで施設内で生活します。犬、猫、小動物それぞれの部屋を見せてもらいましたが、それぞれの動物の性質をよく理解した造りになっていると関心しました。
犬の部屋
犬の部屋2
犬の部屋3
新しい飼い主が見つかるまでの期間ですが、犬は1年から3年程、ただし小型犬は数カ月で見つかるので、私達が見に行った時に収容されていたのはほぼ大型犬で、小型犬は1頭だけでした。猫は3ヶ月程、小動物は数カ月で新しい飼い主が見つかるそうです。
猫の部屋
モルモットの部屋
チラシやポスターを見て里親になろうと思ったら、まずはその家族がティアハイムを訪れ、その動物と、スタッフと面会します。何度か訪れ、家に迎えようと決断したら、ティアハイムのスタッフが飼い主の家を訪れ、その動物を飼うのに適した環境かを見極めます。それに合格して初めて動物を家に迎え入れることが出来るのです。
新しい飼い主は、動物を引き取る時にいくらか払います。それは施設を運営する為の大切な資金の一部になります。他に寄付、政府からの援助で運営が成り立っているそうです。一般の人達からの寄付は、お金だけではなく、フードやベッド、タオルなど様々です。
フード会社などは援助してくれるのですか?と聞きましたが、この施設の答えはNoでした。
【フードのストック】
首輪やリード
最後に気になる殺処分のことを質問しました。
「ドイツでは殺処分がゼロだ」と良く聞きますが、本当かどうか尋ねたところ、答えは「No」でした。
この施設では年間で1~2頭、動物病院に行き、薬を使って殺処分を行っているそうです。殺処分される対象は、凶暴な犬や過剰に臆病な犬など、人と一緒に生活するのが困難でトレーニングしても改善の見込みがない場合や、酷い痛みなどの苦しみを伴う不治の病だと獣医が判断した場合です。
ドイツでティアハイムと言えば、動物保護施設全般をさします。だから名前が同じだからと言って同じ団体が運営しているのではなく、様々な考えを持つ団体が運営しています。
ティアハイムはドイツ全土に500ヶ所以上あり、運営している団体が違えば考え方も違うので、どんな動物も殺さないノンキル施設もあるそうですが、私達が今回訪れた施設は「必要だと判断した場合」のみ殺処分を行っていました。
ドイツでは、行政が運営している、日本で言うところの「保健所」はなく、民間が運営している動物保護施設ティアハイムのみが存在します。ですので、ネグレクトなどで獣医局などが押収したに動物は、行政が保管委託料をティアハイムに支払い、持ち込みます。
施設はドイツ全土にあるので、持ち込んだ施設がいっぱいでも同じグループの他の施設に移すことで、施設がいっぱいになったことを理由に殺処分は行われず、基本は終生飼育をしているそうです。
しかし安易に犬を飼い、飼えなくなったらすぐにティアハイムに持ち込む人や、近隣の国から野良犬を拾いティアハイムに持ち込む人が後を立たず、現在どこの施設も動物を収容できる許容量の限界近くに達していて、施設を維持する為の資金が不足している状態なのだそうです。
ドイツでは犬を飼う際に法律で定められた厳しい決まりがあり、犬税を支払うことも義務の1つです。その犬税は、年間3億ユーロを超えると言われているのですが、ティアハイムの運営費用など犬に関することに使われることはなく、国の税金として使われています。
また、ドイツの法律では狩猟動物を保護する目的で野良犬、野良猫の駆除を認めています。合法的に林や森でウロウロしている野良犬や野良猫をその場で殺すことが出来るのです。ドイツ全体の駆除頭数を示す公的な統計はありませんが、年間で、日本で殺処分される犬猫よりも多くの頭数が駆除されているとも言われています。
動物福祉の先進国と言われているドイツでも抱えている問題はたくさんあります。もちろん良い仕組みは見習う必要がありますが、土地の広さも、文化も、国民性も違う国の全てを、同じようにしても上手くはいかないと思います。
それぞれの国や地域で、人と動物が良い関係を保ちながら暮らせるように、まずは1人1人が身近な地域のことを考え、模索し、柔軟に変更しながら、少しずつ進展しくことが大切だと思いました。
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プロフィール
磯崎 祝代
専門学校にて、犬の学習理論やトレーニングについて学んだ後、アシスタントを経て独立し、DOGECO(株式会社do)を設立。動物病院でのしつけ方教室の開催、訪問によるトレーニング、シッター、犬と楽しめるイベント企画運営、犬の幼稚園の運営、専門学校や高校生にむけた授業、コラムの執筆などの業務を行う。
13年運営してきたDOGECOを解散し現在は主人と一緒に世界を旅行中。今まで経験を踏まえ私の目で見た世界の犬のことをお伝えできたらと思います。
Blog→旅やねん(http://ason-de-kurasu.com/)
Facebook→旅やねん(https://www.facebook.com/asondekurasu/)
instagram→japanese_dog_hana
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