ドッグトレーナーの世界一周わんっ!ワールド!!
Vol.33 ヒンドゥー教からイスラム教の国へ。宗教の違いと人と犬との関係
299naviコラム「ペットと一緒に暮らすために」の著者 山形祝代さんがご結婚され、現在ご夫婦で世界を旅しています。
そこで出会った世界の犬たち。実際に目で見たり体験したことを、日本で約15年間、ドッグインストラクターとして仕事をしてきた経験も踏まえ、リアルな世界の犬のことを伝えてくれるコラムです。
2017年11月下旬から12月上旬のわずか3日間、バングラデシュを旅しました。
訪れたのは、インドとの国境の町「アコウラ」と首都の「ダッカ」だけでしたが、現地の人に泊めてもらったり、人口密度が高いと言われるバングラデシュの人口が多いゆえのカオスな感じを充分味わうことが出来ました。
バングラディッシュ夜のマーケット
道路は、人、自転車、リキシャ、トゥクトゥク、バイク、馬車、荷馬車、バス、自家用車が入り乱れ、凄い渋滞が起きていました。
また、旅行者が少ないバングラデシュで、外人を見る機会が少ないのか、道を歩いているだけで様々な人が話しかけてくれ、とても陽気な国民性だと感じました。
バンクラディシュの国境の町の陽気な人々
私達はインドから陸路で、バングラデシュに入りました。
インドは、ヒンドゥー教の国、バングラデシュはイスラム教の国です。
以前のコラム『イスラム教が深く影響しているイランのペット事情』にも書きましたが、宗教により犬と人との関わり方は変わってきます。
イスラム教の教えでは、犬は病気をもたらす汚いものとされ、イスラム教徒は犬に触れることを嫌います。厳格なイスラム教徒にとって、犬を飼うなんてもっての他です。
一方、ヒンドゥー教ではどうなのでしょうか?
ヒンドゥー教では、家畜でもある牛が崇められていますが、その理由は、昔から牛はミルクやバターを生み出したり、田畑を耕す時の貴重な労働力になったりと、人との生活にかかせず、尊敬される存在だったこと、ヒンドゥー教の最高神である破壊の神シヴァの使いとして描かれていること、また牛の中にはたくさんの神様がいるとされているからだそうです。
内に神様がいるのは、人を含む全ての動物も例外ではなく、数は違えど神様が存在するので、犬を含め全ての動物は神聖だと考えられています。
ですが例外もあり、特に嫌われている動物もいます。
それは猫だそうです。
猫はヒンドゥー教の神の使いであるのネズミを食べる存在だからだそうです。
そう言われれば、インドにいる間、猫を見る機会はあまりありませんでした。
リシュケシュで出会った1人のババジ(インドの幻の聖者。インドではしっかり修行を行い、人々から尊敬されるまでの存在になった人もそう呼ばれていた)は、犬(dog)は反対から読むと「God」になるから、神様のような尊い存在で、様々なことを我々に教えてくれると話してくれました。
そのババジは犬を3頭程飼育し、かわいがっていました。
ちなみに、そのババジが言うには牛の存在は、Mother(母)だそうです。
みんなが尊敬するババジの犬への態度もインド人が犬をかわいがる要因の1つではないかと思います。
もちろん、犬を飼っていないババジもいるし、全てのババジの考えがそうとは限りませんが、同じ考えのババジも複数いるのではないかと思います。
なぜなら、犬と一緒に生活しているババジを数人見ているからです。
話を聞かせてくれたババジの犬を触っていると、1人の女性に「犬は汚い存在だ。その犬からすぐに離れなさい。」と注意されました。
犬に石を投げたり、蹴っている人もいたので、この女性のように、犬のことを良く思っていない人もヒンドゥー教徒の中には勿論いました。
ネパールでは、犬はヒンドゥー教や仏教の中での地獄、冥界の王ヤマラージャの使いという信仰があり、犬を称える風習があるそうです。
確かにヒンドゥー教の地域にいる間、おでこに赤や青の朱を塗られた犬を良く見かけました。
ヒンドゥー教徒もいるネパールでは、毎年10月にティハールと呼ばれる、ヒンドゥー教のお祭りが5日間開催されます。
このお祭りの2日目は、ククルティハールと呼ばれ犬の日とされ、人々は野良犬、飼い犬と分け隔てなく全ての犬を花輪とおでこの朱印などで着飾り、彼らに厄災がかからないように祈りを捧げ、おいしい食べ物で犬をもてなすのだそうです。
ネパールのヒンドゥー教は仏教と混じっている為、インドのものとはまた違うのかも知れません。
またヒンドゥー教にはキリスト教で言う聖書のようなものがなく、明確なバイブルがないので、人により考え方は様々です。
このように様々な考え方がありますが、上で述べたようなことから、ヒンドゥー教は比較的、犬に対しては友好的な宗教なのではないかと思います。
インドからバングラデシュの国境を越えた途端、犬の態度もガラリとかわりました。
インドもバングラデシュも路上でたくさんの犬が暮らしているのは変わりありません。
インドでは人に友好的に近づいて来る犬がいたり、その犬にご飯を与える人や撫でる人がいたりと、犬と人との距離が比較的近いと感じていました。
人に注目するインドの犬
人に物をねだるインドの犬
また、インドでは、大きな荷物を持って歩いていると、たまに吠えられることはありましたが、毎回ではありませんでした。
一方バングラデシュでは、人が近づいた時の犬の態度が怯えていて、決して人に近付こうとせず、人と犬との距離は遠いように見えました。
人と距離をあけるバングラディッシュの犬
大きな鞄を持って歩いている時に警戒して吠えられることも多かったです。
だからと言ってバングラデシュ人が犬をいじめているかというと、そうではありません。適度な距離を保ってお互い生活していました。
ただ、犬を撫でたり犬に食べ物を与えている所は滞在中見かけませんでした。(足で撫でているところは見ました。)
ゴミを漁るバングラディッシュの犬
何かを与えたり触れるという行為は、接触するのでそこで双方にコミュニケーションがうまれ、お互いを理解するきっかけになります。
その時に友好的な接触を持ったという経験をすればする程、お互いに慣れて行き、距離が近づいて行きます。
逆にお互い接触した時にあまり良くない経験をすると距離が遠くなって行きます。
近いから良い、遠いから悪いのではなく、生活に応じてお互いに、適度な距離を保って共存することが大切だと思います。
どういうイメージ、考え方が根底にあるかにより人の犬に対する態度も無意識に違ったものになり、こちらの態度で犬の態度も変わるというのはとても興味深いものでした。
勿論同じ宗教でも地域により異なるのですが、人と動物の関係には、宗教も大きく関わっていることを再認識しました。
何千年に及ぶその地域と犬との関係性で犬の性格も変わっていきます。
ある地域では警戒心が強い犬が、ある地域では用心深い犬が、ある地域ではフレンドリーな要素を強くもった犬が生き残りやすい為、自然淘汰され地域ごとに犬の性格の特徴が生まれるのです。
こういう自然に長い時間をかけて行われてきたことを人為的に短時間で行ったのが犬種改良です。
犬の性格は、産まれてからの環境要素も勿論大切ですが、遺伝的な要素も大きく関係していることを頭においておく必要があります。
幸いなことに、犬種ごとの歴史や特徴などを詳しく解説した本やインターネットサイトがあり、情報を簡単に得ることが出来ます。
今回は、隣の国にも関わらず、宗教が違う2つの国を行き来したことで宗教の違いによる人と犬との関係性が明確に変化して、それがとても興味深いものでした。
宗教の違いによる人と犬との関係性は、機会があればまた書きたいと思います。
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プロフィール
磯崎 祝代
専門学校にて、犬の学習理論やトレーニングについて学んだ後、アシスタントを経て独立し、DOGECO(株式会社do)を設立。動物病院でのしつけ方教室の開催、訪問によるトレーニング、シッター、犬と楽しめるイベント企画運営、犬の幼稚園の運営、専門学校や高校生にむけた授業、コラムの執筆などの業務を行う。
13年運営してきたDOGECOを解散し現在は主人と一緒に世界を旅行中。今まで経験を踏まえ私の目で見た世界の犬のことをお伝えできたらと思います。
Blog→旅やねん(http://ason-de-kurasu.com/)
Facebook→旅やねん(https://www.facebook.com/asondekurasu/)
instagram→japanese_dog_hana
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