ドッグトレーナーの世界一周わんっ!ワールド!!
Vol.04 注意!!かわいい子犬に安易に近づいてはいけないその理由。
299naviコラム「ペットと一緒に暮らすために」の著者 山形祝代さんがご結婚され、現在ご夫婦で世界を旅しています。
そこで出会った世界の犬たち。実際に目で見たり体験したことを、日本で約15年間、ドッグインストラクターとして仕事をしてきた経験も踏まえ、リアルな世界の犬のことを伝えてくれるコラムです。
ブルガリアのローゼン僧院を見た後にハイキングを終え、メルニック村の入口までやってきました。
ゴールは目の前というところで、道端に小さな動く動物を見つけました。
良くみると産まれてまだ一か月もたっていないであろう、自分の力でしっかり歩くこともできないような子犬でした。
なぜ、こんなところにたった1頭でいるのかなと思いましたが、お母さん犬が来るとややこしいので、その場を去ることにしました。
すると歩きだしてすぐにこっちにやって来るお母さんらしき犬が見えました。
これは出来るだけ早く子犬から遠ざからなければなりません。
後ろに子犬がいるので後戻りすることはできません。
左右に道があればそちらに避け遠ざかるのが一番ですが、砂利の崖を下らなければならず、道の構造上それは難しそうです。
結果、母犬とすれ違い遠ざかるのが一番のようです。できるだけ、道幅一杯に大きく弧を描くように、前からやってくる母犬と最大限の距離をとりながらすれ違うことにしました。
すると、私の前方、犬の後ろにも、もう1頭子犬がいるのが見えました。
あぁもう、これは、ピンチです。
母犬も子犬も見ないように目をそらし、身体も背けてあくび、まばたき、無視もし、あなた達に危害は加えないよと必死に合図(カーミングシグナル)を送るも、母犬も子犬に危害を加えられないか守るのに必死。
ボーダーに似た雑種に真後ろで、吠えられまくられ、これ以上遠ざかるには、この道下りるしかないかと砂利道を下るのに一歩踏み出すのがどれだけ怖かったか。
母犬に、こいつ、危害を加える気があるなと判断された時点で噛みつかれる可能性があります。
なので、次へ行動を移す為に動く瞬間が一番怖いのです。
そして、子犬が私に近づいてこないことを祈りました。
痛みによるもの、恐怖によるもの、大切なものを守る為など、犬が攻撃する理由は様々です。
その1つに母性によるものがあります。
まさに今回のがこれで、子を守る為の攻撃です。
どこの世界の母もとてつもなく強く、自らの危険はかえりみず必死に子供を守ろうとします。
そんな母性の前で対立するような強い態度をとって勝とうなんて無謀です。
対立されそうになった時、子供をおいて逃げられない母犬が選択できる手段は一つしかありません。それは攻撃です。
なので、この場合、こちらが危害を加える気はないことを示し、逃げるのが一番平和的な解決につながります。
犬は普段、争いが起きそうな時、平和的に解決できる方法を優先的に選択します。
それが、争いを避ける為の逃避、逃走です。
でも、それができない場面になると降参を示す態度をとったり、威嚇をし、それ以上やらないでと相手に伝えたりします。
それでも相手がわかってくれないと攻撃するしかなくなります。
なので、平和的解決を望み、逃げようとしている犬を追い詰めたり、威嚇しているにもかかわらず無理に何かをし続けることは、犬と平和に暮らす為にやってはいけないことの1つです。
例えば爪切り。爪切りされるのが嫌だと思って逃げる犬を無理やり捕まえて爪をきる。
最初の何回かは切らせてくれるかもしれません。また、諦めて大人しく切らせてくれるようになるかもしれません。
でもその心の中の嫌だ逃げたいという気持ちを消すことはできません。
その気持ちは日に日に大きくなり、いつ攻撃という形で爆発してもおかしくありません。
無理やり犬に何かを行う、そんなリスクが高いことをするよりも、犬が嫌だと思う行為は少しずつ慣れさせるように練習すると良いです。
慣れさせるには、多少時間がかかりますが、犬の一生を考えると、ほんの短い期間です。
爪切りが嫌で、最初はやめてと手を引っ込めたり逃げようとしたり平和的解決を望んでいた犬も、わかってくれず無理やり続けることで威嚇するようになり、それでもわかってくれない時に噛む可能性があります。
噛んでやめてもらった犬は、そこで噛んだら嫌なことをやめてもらえるんだと学習し、嫌なことがあるたびに噛むようになる場合があります。
始まりは、ほんの些細なこと。だけど一度噛むことを学習してしまった犬に噛まないように教えるにはとても時間がかかります。
犬が嫌がることは少しずつ段階をふんで慣れさせてあげる。人も犬も楽しく一緒に暮らしていくためには、必要なことです。
やり方がわからない人は専門家に相談することをおすすめします。
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プロフィール
磯崎 祝代
専門学校にて、犬の学習理論やトレーニングについて学んだ後、アシスタントを経て独立し、DOGECO(株式会社do)を設立。動物病院でのしつけ方教室の開催、訪問によるトレーニング、シッター、犬と楽しめるイベント企画運営、犬の幼稚園の運営、専門学校や高校生にむけた授業、コラムの執筆などの業務を行う。
13年運営してきたDOGECOを解散し現在は主人と一緒に世界を旅行中。今まで経験を踏まえ私の目で見た世界の犬のことをお伝えできたらと思います。
Blog→旅やねん(http://ason-de-kurasu.com/)
Facebook→旅やねん(https://www.facebook.com/asondekurasu/)
instagram→japanese_dog_hana
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