弁護士石井センセイのペット事件簿

第14回 動物虐待罪の処罰範囲について

弁護士石井センセイのペット事件簿

京都で弁護士をされている石井一旭先生に、実際にあったペットに関連する事件をご紹介いただきます。
「ペットを愛する方々に楽しく法的知識を身につけていただき、弁護士を身近な相談相手として感じてもらいたいと思っております。」


Xの次の行為は、犯罪になるでしょうか。

Q1 Xは、友人が飼っているうさぎにタバコの火を押し付けて、やけどをさせた。
Q2 Xは、自分が飼っているオウムにタバコの火を押し付けて、やけどをさせた。
Q3 Xは、友人が飼っている金魚の水槽に毒物を入れ、金魚20匹を殺害した。
Q4 Xは、自分が飼っているハムスターに餌をやらず、衰弱死させた。
Q5 Xは、自分が飼っているハムスターに芸を覚えさせようと、火の輪をくぐらせた。
Q6 Xは街のあちこちにネズミ捕りを多数仕掛け、野生のドブネズミを多数殺害した。

1 動物愛護法の虐待処罰規定

先日、動物虐待について講演する機会を得ました。そこで今回は動物虐待についてお話ししたいと思います。
動物虐待については、動物愛護法(以下単に「法」といいます。)44条に罰則規定があるのですが、一般の方には読みにくい規定ぶりとなっていますので、例を挙げて説明したいと思います。

2 具体的検討

(1)法律上のルール
法44条第1項は、「愛護動物をみだりに殺し、又は傷つけた者は、2年以下の懲役又は200万円以下の罰金に処する」と定めています。また、第2項は、これ以外の虐待方法、例えばネグレクトや不適切な環境での飼育等について「100万円以下の罰金」を定めています。
なお2019年の改正動物愛護法(1年以内に施行予定)は、罰則をそれぞれ「5年以下の懲役又は500万円以下の罰金」「1年以下の懲役又は100万円以下の罰金」に引き上げました。

動物愛護法の対象となるのは「愛護動物」ですが、何が「愛護動物」にあたるのかは、第4項に規定されています。

① 牛、馬、豚、めん羊、山羊、犬、猫、いえうさぎ、鶏、いえばと及びあひる
② ①以外で、人が占有している動物で哺乳類、鳥類又は爬虫類に属するもの

逆に言えば、①②に該当しない動物をみだりに殺したり傷つけたりしても、動物愛護法の罰則の適用はない、ということになります。

(2)各ケースについて
それでは各ケースを見てみましょう。
まずQ1のうさぎの虐待は、①「いえうさぎ」への虐待として、法44条第1項の罰則の対象となります。

Q2のオウムはどうでしょう。①には鳥類として鶏とハト・あひるがありますが、オウムは規定されていません。ですので①には該当しないことになります(同じ鳥類だからとしてオウムも含まれると解釈することは、刑罰規定において禁止される類推解釈になります。)。ただし、「自分が飼っている=人が占有している」「鳥類」ですので、②により「愛護動物」として扱われ、法44条第1項の罰則の対象となります。

Q3の金魚の虐待は、魚類は①にも②にも該当しないため、動物愛護法では処罰されないことになります。ただし、「友人が飼っている金魚」ですので、友人の所有物を毀損したとして、刑法の器物損壊(動物傷害)罪に該当します。なお器物損壊罪での起訴には、被害者(この場合金魚を飼っていた友人)が捜査機関に告訴をする必要があります。

Q4のハムスターは、Q2と同じで、①には該当しませんが、人に飼われている哺乳類として②にあたります。これに餌をやらないことは、法44条第2項において禁じられている虐待行為、「みだりに給餌…をやめ」に該当しますので、Xには100万円以下の罰金が科されます。

Q5は同じハムスターへの虐待行為ですが、現行法ではXのこのような行為を処罰することはできません。しかし、改正動物愛護法により、「みだりに、その身体に外傷が生ずるおそれのある…行為をさせること」も処罰されることになりました。これにより、ハムスターが負傷しかねない危険な「火の輪くぐり」をさせることは法44条2項の罰則に当たりえます(安全を期したサーカス等の場合は正当業務行為として処罰対象外とされるでしょう)。

Q6はどうでしょう。ネズミは①には含まれず、哺乳類ですが野生種なので②にも該当しません。誰かの所有物でもないので、Q3の金魚と違い、器物損壊(動物傷害)罪の対象でもありません。無許可での動物の捕獲を禁じる鳥獣保護法という法律もありますが、ドブネズミは対象外とされています(同法80条、同規則78条)。よってこの場合は一切処罰されないことになります。

まとめ

Q1→法44条4項1号により「愛護動物」に含まれ、法44条1項の処罰対象。
Q2→法44条4項2号により「愛護動物」に含まれ、法44条1項の処罰対象。
Q3→法44条4項に該当せず、「愛護動物」ではないので不可罰。ただし刑法の器物損壊(動物傷害)罪の適用範囲。
Q4→法44条4項2号により「愛護動物」に含まれ、法44条2項の処罰対象。
Q5→法44条4項2号により「愛護動物」に含まれるが、現行法では不可罰。改正法では法44条2項の処罰対象。
Q6→法44条4項に該当せず、「愛護動物」ではないので不可罰。
となります。

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プロフィール

石井 一旭
京都大学法学部卒業、京都大学法科大学院修了。京都市内で「あさひ法律事務所」を開設、ペット問題をはじめとして、交通事故・相続・離婚・債務整理・不動産・企業実務・登記等、幅広い分野を取り扱う。司法書士有資格者。

あさひ法律事務所HP
https://www.asahilawfirm.com/

弁護士石井一旭のペット法律相談所
https://peraichi.com/landing_pages/view/lawyerishiipettrouble

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