弁護士石井センセイのペット事件簿

第16回 うちの子が病気だったなんて!・・・病気・障害あるペットの購入

弁護士石井センセイのペット事件簿

京都で弁護士をされている石井一旭先生に、実際にあったペットに関連する事件をご紹介いただきます。
「ペットを愛する方々に楽しく法的知識を身につけていただき、弁護士を身近な相談相手として感じてもらいたいと思っております。」


Rさんは、ペットショップXで一目惚れしたマンチカン「エル」を購入しました。ところが家に連れ帰った「エル」がずっと寝ているので、動物病院で診てもらったところ、持病があることが判明しました。Rさんとしては、病気であっても「エル」を飼い続けるつもりですが、ペットショップXには何らかの責任をとってもらいたいと考えています。

この連載でも繰り返していますとおり、日本の法律においてペットは「物」として扱われていますので、このケースも法的には「購入した電化製品が故障していた」という問題と同じになります。

1 修補請求・代替物引渡請求

売買契約において引き渡された目的物が、その品質に関して契約の内容に適合しないものであるときは、買主は、売主に対し、①目的物の修補、②代替物の引渡しによる履行の追完を請求することができます(民法562条1項)。
ペットショップで購入した猫が病気を持っていたという話は、病気を知っていてあえて購入したような場合を除けば、通常「契約の内容に適合しない」ものと言えますから、買主Rさんは、ペットショップXに対して、「目的物の修補」、すなわち病気の治療費の請求や、「代替物の引き渡し」、すなわち代わりのマンチカンの引き渡しを求めることができます。
ただし、売主は、買主に不相当な負担を課するものでないときは、買主が請求した方法と異なる方法による履行の追完をすることができます(同但書)。つまり、買主に損がなければ、「治療費を支払うのではなく、代わりの猫の提供でお願いします」と言えるということです。
なおこの請求は、当事者間の特約で排除することができます(同572条)ので、請求にあたっては契約書をよく確認しましょう。

2 代金減額請求・契約の解除

買主が、相当の期間を定めて、上記の履行の追完(修補もしくは代替物の引渡)を請求したにもかかわらず、その期間内に履行の追完がないときは、買主は、その不適合の程度に応じて代金の減額請求をするか(同563条1項)、または契約を解除することができます(同564条、541条)。
履行の追完が不可能なとき(例えば「エル」が病気ではなく障害を持っていた場合)や、売主が履行の追完を拒絶する意思を明確にしたときなど一定の場合には、買主は直ちに代金減額請求、または契約を解除することができます(同563条2項、542条)。
契約を解除した場合、契約当事者間には原状回復義務が発生し、買主Rさんは「エル」をXに返す代わりに、代金の返還を受けることができます(同545条)。

3 損害賠償請求

買主は、修補請求・代替物引渡請求・契約の解除と並行して、売主に損害賠償請求をすることができます。本件における損害賠償請求の対象としては、例えば「エル」を動物病院で診てもらった診察料や通院費等が考えられます。なお、代金が減額された場合は、その減額された代金で契約が成立したことになり、つまり債務不履行がなかったことになるので、代金減額請求と同時に損害賠償請求をすることはできません。

4 期間制限

Rさんが「エル」の引渡しを受け、「エル」が病気であることを知ってから1年以内に売主Xに通知しなければ、売主Xが引渡し時に不適合であることを知っていたか、あるいは重大な過失によって知らなかった場合を除いて、上記1~3の請求ができなくなります(566条)。

5 消費者契約法

また、ペットを業者から購入するにあたって、業者が重要事項について事実と異なることを告げ、消費者がその告げられた内容が事実であると誤認をして契約を締結した場合は、契約を取り消すことができます(消費者契約法4条1項1号)。
ペットとして飼おうとした猫に病気があるかどうかは買主にとって重要事項であることは間違いないので、Xが「エル」を健康であると告げ、Rさんがそれを信じて購入した場合は、不実告知として、Rさんは契約を取り消して代金の返還を請求することができると考えます。

まとめ

Rさんは病気の「エル」を飼い続けたいということなので、まずXに対して1の「修補請求」と3の「損害賠償請求」を催告し、Xから返答がなければ訴訟を提起するか、2の「代金減額請求」を検討することになります。

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プロフィール

石井 一旭
京都大学法学部卒業、京都大学法科大学院修了。京都市内で「あさひ法律事務所」を開設、ペット問題をはじめとして、交通事故・相続・離婚・債務整理・不動産・企業実務・登記等、幅広い分野を取り扱う。司法書士有資格者。

あさひ法律事務所HP
https://www.asahilawfirm.com/

弁護士石井一旭のペット法律相談所
https://peraichi.com/landing_pages/view/lawyerishiipettrouble

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