弁護士石井センセイのペット事件簿

第12回 ペットのために信託を!

弁護士石井センセイのペット事件簿

京都で弁護士をされている石井一旭先生に、実際にあったペットに関連する事件をご紹介いただきます。
「ペットを愛する方々に楽しく法的知識を身につけていただき、弁護士を身近な相談相手として感じてもらいたいと思っております。」


74歳のXさんは最近トイプードルの「チョコ」を飼い始めましたが、自分が亡くなったらチョコがどうなってしまうかとても心配で、自分の遺産をチョコのために残したいと考えています。
Xさんの親類は子のAだけですが、Aは大の犬嫌いです。また犬仲間のTさんは、「Xさんが亡くなった後にチョコの世話をするのは構わないが、財産を預かるのはトラブルになるからしたくない」と言っています。

1 考えられる方法

高齢社会が進展するに従い、このような問題も増加することが予想されます。繰り返しお伝えしていますとおり、ペットは法律上『動産』ですので、自由に譲渡することができますし、相続の対象にもなります。

Xさんがこのまま何もせずに亡くなってしまうと、チョコは相続財産としてAの所有となりますが、Aが犬嫌いということなので、望ましい結果とは言えません。理解のある犬仲間のTさんに遺贈(遺言による贈与)をすることも考えられますが、Tさんの承諾なくチョコと相当の財産を渡す遺言を作成すれば、後々トラブルに至る可能性もあります。

Xさんとしては「自分が死ぬまではチョコを手元に置いておきたい。自分が死んだら、チョコのために財産を残し、理解のある人にチョコの世話をしてもらいたい」という望みがあると思われますが、このような要望を叶える制度として、信託を利用することが考えられます。

2 信託とは

簡単に言えば、信託は、一定の財産を誰かに管理してもらい(信託を頼む人を委託者、管理する人を受託者といいます)、管理によって発生する利益を誰かに渡す(利益を得る人を受益者といいます)、という仕組みです。

本件に則して説明すると、Xさんは委託者として、動産という財産であるチョコとチョコの生活費等の金銭を信託財産とし、その管理を受託者Aに任せ『チョコを飼う』という権利と飼育費用の受給権を、Xさんの生前はXさん自身に、Xさんの死後はTさんに受益させる、という仕組みです。

法的な説明ですとややこしいのですが、要するに、Xさんは以前と変わらずチョコを飼い続けることができます。ただし、チョコにかかる費用についてはチョコのための財産を管理する受託者Aに請求する形になります。Tさんは、Xさんが亡くなったあとにチョコを引き取り、飼うことになります。その費用はやはりAに請求し、Aから(正確にはAの管理するXさんの遺産から)もらいます。
なお、信託財産は相続財産から外れますので、Xさんが亡くなってもチョコとチョコのための財産に変動はありません。Aは、Xさんから預かった財産を専用の口座に入れるなどして適正に管理します。例えばTさんが無関係な請求をしてきた場合は、支払いを拒否することもできます。

3 信託を始めるにあたって

信託は委託者と受益者の間で信託契約を結ぶことにより成立するので、まず受託者になってほしいAに相談することになります。ここで重要なのは、受託者が行うのはチョコのための財産管理であり、チョコを飼うことではないという点です。犬嫌いのAも、チョコを飼うのではなく財産管理を行うということであれば協力してくれるのではないでしょうか。
もしAの協力が得られないときは、信託会社を利用することも考えられます。もちろんTさんにも、制度の説明や受益権の内容などについて、よく説明しておく必要があります。

4 まとめ

相続対策一般に言えることですが、とりわけ信託は複数当事者が関わる制度ですし、将来起こりうる様々な可能性を考え、当事者の誤解や制度設計ミスがないようにしておかなければいけません。

自分の死後にペットのために財産を残したい、とお考えの方は、専門家によく相談し、間違いのない計画を立てるようにしてください。

バックナンバー

プロフィール

石井 一旭
京都大学法学部卒業、京都大学法科大学院修了。京都市内で「あさひ法律事務所」を開設、ペット問題をはじめとして、交通事故・相続・離婚・債務整理・不動産・企業実務・登記等、幅広い分野を取り扱う。司法書士有資格者。

あさひ法律事務所HP
https://www.asahilawfirm.com/

弁護士石井一旭のペット法律相談所
https://peraichi.com/landing_pages/view/lawyerishiipettrouble

こちらもおすすめ

page top