弁護士石井センセイのペット事件簿
第13回 動物愛護法改正について
京都で弁護士をされている石井一旭先生に、実際にあったペットに関連する事件をご紹介いただきます。
「ペットを愛する方々に楽しく法的知識を身につけていただき、弁護士を身近な相談相手として感じてもらいたいと思っております。」
1 総論
2019年(令和元年)6月12日、動物の愛護及び管理に関する法律(動物愛護法)の改正が参議院本会議において全会一致で可決成立しました。
この改正法は、最近の動物の愛護及び管理に関する状況に鑑み、動物取扱業のさらなる適正化や、動物の不適切な取扱いへの対応の強化を図るため必要な措置を講じようとするものであり、一部例外を除いて、公布日(6月19日)から1年以内に施行(法律として効力を生じること)されます。
今回は「事件簿」をお休みして、この5年ぶりの動物愛護法法改正の概略をご案内します。(以下、動物愛護法について、現行法を「法」、改正法を「新法」を省略します)
2 主な内容
(1) 動物の所有者等が遵守すべき責務規定の明確化
動物の所有者又は占有者は、環境大臣が定める飼養及び保管に関し、定める基準を遵守すべきことが規定されました(新法7条1項後段)。
(2) 第一種動物取扱業による適正飼養等の促進等
- ア 登録拒否事由の追加
- 第一種動物取扱業を行う場合は都道府県知事等の登録を受ける必要があります(法10条1項)が、業者・業界の適正化を目的として、登録拒否事由が新たに追加されました。
- イ 環境省令に定める遵守基準の具体的明示
- 第一種動物取扱業者は環境省令で定める基準を守る義務を負っていますが(法21条1項)、この基準が具体的に項目立てられました(新法21条2項3項)。例えば従業員の最低人数や繁殖回数制限等が、公布後2年以内に、環境省令で定められます。この数値がゆるすぎては基準として無意味ですので、今後も注意深く見守っていく必要があります。
- ウ 犬猫の販売場所の限定
- これまでも動物の販売については対面販売が義務付けられていましたが(法21条の4)、対面販売を行う場所が第一種動物取扱業者の事業所に限定されます(新法21条の4)。
- エ 8週齢規制
- 子犬や子猫を販売するにあたって、生後8週間(56日)までは親元にとどめておく、いわゆる「8週齢規制」が実現しました。ただし施行は少し遅れて「公布の日から2年以内」としています。
子犬・子猫が十分な社会化を果たすためには8週齢まで親元で過ごすことが重要と言われています。
ただし、文化財保護法により天然記念物として指定された犬(柴犬・紀州犬・秋田犬等の日本犬6種)の繁殖を行う犬猫等販売業者については、従前どおり、出生後49日を経過すれば一般販売することができます(新法附則2項)。これらの犬種は天然記念物であるがゆえに業者ではなくきちんとしたブリーダーから購入されるので、上記のような弊害はないと説明されていますが、親元から早期に引き離すことによる悪影響をブリーダーの能力で埋め合わせることができるのか、正直疑問が残るところです。
(3) 動物の適正飼養のための規制の強化
- ア 適正飼養が困難な場合の繁殖防止の義務化
- これまでも、犬・猫の所有者は、みだりに繁殖するおそれがあるときに去勢手術等の措置をとるべき努力義務が課されていましたが、改正により、繁殖防止の具体的な措置をとるべきとなりました(新法37条1項)。
- イ 都道府県知事による指導、助言、報告徴収、立入検査等を規定
- 動物を飼うことによって周辺の生活環境が損なわれている場合や、不適正な飼養・保管により動物が衰弱するなど虐待のおそれがある事態が生じている場合に、飼い主に対し、必要な勧告や措置命令を行うことができるようになります。また、必要な限度で、飼い主に報告を求めたり、立入検査をすることもできます(新法25条1~7項)。
- ウ 特定動物に関する規制の強化
- 特定動物(人の生命、身体又は財産に害を加えるおそれがある動物として政令で定められるもの。特定動物が交雑したことにより生じた動物も含まれます)については、愛玩目的での飼養・保管が禁止され、動物園等での展示等の一定の目的の場合に限り許可されます(新法25条の2・26条)。
- エ 動物虐待に対する罰則の引き上げ
- 動物殺傷罪の法定刑が、「2年以下の懲役又は200万円以下の罰金」から「5年以下の懲役又は500万円以下の罰金」と大幅に引き上げられ、またこれまで罰金刑だけだった動物虐待・遺棄罪の法定刑に「1年以下の懲役」が加えられました(新法44条1項~3項)。
(4) 都道府県知事等の措置等の拡充
動物愛護管理センターの業務を規定するとともに(新法37条の2)、動物愛護管理担当職員の位置づけの明確化を行いました(新法37条の3)。また、所有者不明の犬猫の引取を、場合によっては拒否できます(新法35条3項)。
(5) マイクロチップの装着義務
この改正は、公布の日から3年以内に施行されます。
犬猫等販売業者が犬・猫を取得したときは、取得日から30日以内もしくは譲渡するときまでにマイクロチップを装着し、環境大臣の登録を受けなければなりません(新法39条の2第1項、新法39条の5第1項)。一般の犬・猫の所有者については、マイクロチップ装着の努力義務が定められました(新法39条の2第2項)。
また、登録済の犬・猫を譲り受けた場合、取得から30日以内に変更登録をしなければなりません(新法39条の6)。登録の方法は、手数料を納付して申請書を提出することとされていますが、詳細は未定です(新法39条の5第2項、同39条の26他)。
なお既にチップ装着済の場合、犬猫等販売業者は施行から30日以内に環境大臣の登録を受けなければならず、それ以外の所有者は、任意で登録することができます(新法附則5条)。
(6) その他
その他にも、殺処分の方法について国際的動向に十分配慮すること(新法40条3項)、獣医師による虐待の通報の義務化(新法41条の2)が定められました。
なお、施行後5年を目処に必要な措置を講ずるとする検討条項が設けられており(新法附則11条)、今回の改正同様、5年間経過を見て次回の法改正を行うことになると予想されます。
バックナンバー
プロフィール
石井 一旭
京都大学法学部卒業、京都大学法科大学院修了。京都市内で「あさひ法律事務所」を開設、ペット問題をはじめとして、交通事故・相続・離婚・債務整理・不動産・企業実務・登記等、幅広い分野を取り扱う。司法書士有資格者。
あさひ法律事務所HP
https://www.asahilawfirm.com/
弁護士石井一旭のペット法律相談所
https://peraichi.com/landing_pages/view/lawyerishiipettrouble
こちらもおすすめ
バックナンバー
- 第18回 「愛玩動物看護師」が誕生します!
- 第17回 ペットはあくまで「モノ」なのか、それとも?
- 第16回 うちの子が病気だったなんて!・・・病気・障害あるペットの購入
- 第15回 近づいてくるほうが悪い?・・・飼い主の責任について
- 第14回 動物虐待罪の処罰範囲について
- 第13回 動物愛護法改正について
- 第12回 ペットのために信託を!
- 第11回 ペットフードを巡る問題
- 第10回 ネットでのペット購入問題
- 第9回 ペットは一体だれの「物」なのか?
- 第8回 ペット繁殖の問題について
- 第7回 動物虐待を見つけたら
- 第6回 自分が死んだら、残されたペットはどうなるのだろう…その2
- 第5回 自分が死んだら、残されたペットはどうなるのだろう…その1
- 第4回 里子に出したペットを取り戻したい!
- 第3回 マンショントラブルその3~鳴き声のお話
- 第2回 マンショントラブルその2~管理規約改定のお話
- 第1回 ペット禁止のマンションでペットを飼うとどうなるの?