弁護士石井センセイのペット事件簿

第17回 ペットはあくまで「モノ」なのか、それとも?

弁護士石井センセイのペット事件簿

京都で弁護士をされている石井一旭先生に、実際にあったペットに関連する事件をご紹介いただきます。
「ペットを愛する方々に楽しく法的知識を身につけていただき、弁護士を身近な相談相手として感じてもらいたいと思っております。」


この連載で何度も書いているフレーズ、「ペットは、法律上、物として扱われています」。
少しずつこのことが浸透してきたためか、私の事務所にご相談に来られる方にもこのことを最初からご存知の方が増えてきました。
しかし理屈ではわかっていても、「モノ扱い」とされてしまうことに苛立ちを覚える方は多いでしょう。

どうしてペットは、法的には「モノ扱い」なのでしょうか。

わが国の民法は、自らの意思を実現することができる権利の主体を「人」と「法人」に限定しており、動物については規定がなく、含まれていません。
「人と動物を同様に扱えばいいのに」と思われるかもしれません。

しかし、いかに知能が高い動物といえども、「所有」や「契約」、「お金の価値」などといった人間社会の様々な概念を理解することは難しいでしょう。いやもしかしたら実は理解しているのかもしれませんが、それでも文章を書いたり人と会話したりすることができないので、権利を実現したり義務を果たすことができません。

また、一口に動物と言っても、皆さんが飼っているイヌ・ネコと、野生動物や、畑を荒らす「害獣」までを一緒に扱っていいものでしょうか。魚や昆虫などはどうすべきか、線引きをどうすればいいのでしょうか。
「人が飼っている動物」に限定して権利を認めるとしても、結局飼い主の意向が反映されることになります。それは「人の所有物として飼い主を介して保護される」ということとどう違うのでしょうか。
それに、畜産や、動物を利用した農業、医療実験などは奴隷的拘束としてやめるべきでしょうか。

このように、いざ法律で動物を人と同じ扱いにすることを考えてみると、非常に対応の難しい問題がたくさん出てきます。これが、現行の法律上、動物を「物」として取り扱わざるを得ない理由です。

このフレーズに関連してよく引き合いに出されるのがドイツの法制度です。
確かにドイツ民法90a条は「動物は物ではない」と明記しています。また、ドイツ連邦共和国基本法(ドイツの憲法)は、2002年、動物保護を国の責務とする改正を行いました(20a条)。
これらを受けて、日本もドイツにならうべきだ、という議論を時々耳にします(余談ですが、このような憲法改正議論もあって良いと思うのですが、何故か日本では憲法改正=9条改正の是非という図式になってしまい、憲法改正の議論自体が難しくなってしまっているのは個人的に残念に思います。)。

ただ、これらの法律があるからといって、ドイツの動物が主体的に契約をしたり、財産を所有したりできるわけではありません。
現に、ドイツ民法90a条は続けて「動物は特別の法律によって保護される。動物については、物についての規定を、他に規定がない限り準用する」と定めています。
結局、ドイツにおいても、動物は憲法上国の責務とされるまでに手厚く保護されるべきとはされているものの、基本的には物として扱われていることは、日本と変わらないのです。

我が国においても、昨年の動物愛護法改正による愛護動物虐待の厳罰化や、死傷における飼い主の慰謝料額が次第に高額化していることなどに照らせば、「動物は物ではあるが、単なる物ではない。少なくとも命ある物として、特別に扱うべきである。」という方向に、少しずつですが、動いています。

法制度の改正は、一朝一夕に成し遂げられるものではありません。
新しい法制度が施行されるためには国会による立法が必要であり、立法には「ペットの地位をもっと向上させるべきだ」という国民全体のコンセンサスの存在が必要条件となります。
そのためには、ペットを飼わない人や動物を苦手とする人の理解も得なければなりません

ペットを飼っている皆さん一人一人が、他人の迷惑にならない飼い方を心がけ、人と動物が共生できる環境の実現を意識することが、ペットを含めた動物の地位の向上につながっていくことになるのです。その結果、いつか「モノ扱い」されない法制度が実現することを願っております。

バックナンバー

プロフィール

石井 一旭
京都大学法学部卒業、京都大学法科大学院修了。京都市内で「あさひ法律事務所」を開設、ペット問題をはじめとして、交通事故・相続・離婚・債務整理・不動産・企業実務・登記等、幅広い分野を取り扱う。司法書士有資格者。

あさひ法律事務所HP
https://www.asahilawfirm.com/

弁護士石井一旭のペット法律相談所
https://peraichi.com/landing_pages/view/lawyerishiipettrouble

こちらもおすすめ

page top