弁護士石井センセイのペット事件簿

第3回 マンショントラブルその3~鳴き声のお話

弁護士石井センセイのペット事件簿

京都で弁護士をされている石井一旭先生に、実際にあったペットに関連する事件をご紹介いただきます。
「ペットを愛する方々に楽しく法的知識を身につけていただき、弁護士を身近な相談相手として感じてもらいたいと思っております。」


今回も、ペット飼育可能マンションでのトラブル事例をご紹介します。

ミニチュアダックスの「ノワールちゃん」を飼っているAさんは、ペット飼育可能なPマンションに入居しています。
ところが隣に入居しているBさんから、「ノワールちゃんの声がうるさい」と再三苦情や警告があり、それを無視していたところ、Bさんから「イヌを連れてマンションを出て行くこと、慰謝料を払うこと」を求める内容の訴訟を提起されてしまい、困惑しています。(東京地判平成21年11月12日参照)

ペット飼育可能なマンションであっても、ペットの飼育は周囲の理解の上に成り立つものであることは前回までにお話ししました。今回はより直接的に、お隣から苦情があり、裁判まで起こされてしまったケースです。

私たちが生活するうえで、他者の権利との衝突は避けられないものです。特に公害や騒音問題などの生活環境問題においては、「発する側の利益」と「受ける側の損害」の対立が問題となります。
今回のイヌの鳴き声についても、すべてのイヌの鳴き声を騒音扱いして禁止することも、どんなにうるさくても辛抱すべき、という結論も、社会のルールとして真っ当とは言えません。

このせめぎ合いに対する回答として「受忍限度論」という理論があります。
すべての権利は社会生活上妥当と認められる範囲内でのみ行使されるべきであって、社会生活上一般的に認容できる範囲を超えた行為は違法となる、という考え方です。

今回のケースでも、まずノワールちゃんの鳴き声の大きさ、迷惑度が「受忍限度」を超えるかどうかが問題となります。

単純化してしまえば、Bさんの家で聞こえるノワールちゃんの鳴き声が「受忍限度」のレベルに達しない場合は、BさんはAさんに対して法的責任を求めることはできません。逆にこのレベルを超えていれば、BさんはAさんに対して不法行為責任を追及できます。
受任限度は、鳴き声の大きさ、時間帯、頻度、事実経過や、その生活環境の状況、その間に取られた防止措置の有無及びその内容・効果等、様々な要素を総合的に比較して判断されます。

不法行為責任の内容ですが、基本的には金銭的解決となると思われます。
Aさんの居住権を制限する「イヌを連れて出ていくこと」の強制は、賠償よりも大きくAさんの権利を損ないますから、よほど騒音がひどい場合等でないと難しいでしょう。

他人の不法行為によって受けた苦痛の賠償(慰謝料)はいくらぐらい認められるのでしょうか?

騒音でノイローゼや睡眠不足になったとか、音楽やテレビも楽しめなくなったとか、いろんな「苦痛」があると思いますが、一概にこれならいくら、と決められるものではなく、ケースバイケースとなります。
なおネタ元になった裁判例では、50~60デシベル程の騒音(人の話し声程度)があったと認められ、約1年間の期間なども考慮して、5万円の慰謝料が認められました。

実際にあった裁判では、原告側は当初「イヌの殺処分」まで求めていました。
この請求は、裁判中に被告の娘さんがイヌを連れて引っ越したため取り下げられましたが、原告はよほどイヌの鳴き声が腹に据えかねていたのでしょう。

イヌの鳴き声ひとつにしても、大きな鳴き声でもなんとも思わない人から小さな鳴き声でも不快に思う人まで千差万別です。自分の基準で「吠えてもかわいいから許す」ということでは、周辺と大きなトラブルを招く可能性があるのです。

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プロフィール

石井 一旭
京都大学法学部卒業、京都大学法科大学院修了。現在、京都市内で弁護士として、交通事故・相続・債務整理・不動産・刑事・企業実務・登記・ペット問題等、幅広い分野を取り扱う。司法書士有資格者。

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