弁護士石井センセイのペット事件簿

第2回 マンショントラブルその2~管理規約改定のお話

弁護士石井センセイのペット事件簿

京都で弁護士をされている石井一旭先生に、実際にあったペットに関連する事件をご紹介いただきます。
「ペットを愛する方々に楽しく法的知識を身につけていただき、弁護士を身近な相談相手として感じてもらいたいと思っております。」


今回は、前回に引き続いて、ペット飼育可能なマンションの話をしたいと思います。

トイプードルの「ピノちゃん」を飼っているAさんは、分譲マンションPがイヌネコを含めペット飼育可能との管理規約を確認し、Pマンションの一室を購入しました。
ところが、同じくPマンションに入居しているBさんのイヌは、夜中に無駄吠えをしたり廊下やエレベーターといった共用部分にオシッコをしたり。Pマンションの住民の多くから不満の声が上がり、とうとう管理組合の集会で「魚や小鳥等の小動物以外、ペット飼育禁止」という規約改正案が居住者の90%の賛成多数で可決されてしまいました。ピノちゃんは無駄吠えなどもしない大人しいイヌだったのに、理不尽だとAさんは怒っています。

前回の反省を踏まえ(?)Aさんはきちんと「ペットOK」という管理規約を確認してPマンションに入居しました。ところが、ピノちゃん以外のペットの不始末が原因で、管理規約がペット禁止と変更されてしまった、というケースです。
問題となるのは、①ピノちゃんには不始末がなかったのに、規約変更に従わなければならないのか?②Aさんに断りなく、後からペット禁止と規約を変更することができるのか?という点です。

まず①ですが、マンションの規約は居住者(区分所有者)を拘束します。いろんな考え方を持つ人が集まって住んでいる分譲マンションでは、共同の利益に反する行為は許されず、そのルール(規約)は多数決(具体的には、区分所有者及び議決権の各々4分の3以上の多数による決議)で設定・変更されます。適正に変更された規約については、Aさんを含めたすべての居住者が従わなければなりません。
本件では、規約改正案は90%の賛成多数で可決されています。ピノちゃんが誰にも迷惑をかけていないとしても、Aさんは変更後の規約に従わなければならないのです。

次に②です。
まず、規約は原則として多数決をもって自由に定めることができます。ですので、きちんとした手続にのっとっていれば、既にペットを飼っている居住者がいたとしても、後からペット禁止と定めることもできます。
では、現にペットを飼っているAさんやBさんに断りがいるのかどうか。
法律上「(規約の変更が)一部の区分所有者の権利に特別の影響を及ぼすべきときは、その承諾を得なければならない」と定められています。前回お話ししたように、ペットを手放すか引っ越しを強いられる飼い主は「特別の影響」を受けるものとしてこの承諾の対象になるようにも思えます。しかし、裁判例は、盲導犬のように生活に不可欠な存在であればともかく、通常のペットはそうではないとして、飼い主の承諾なく規約を変更できるとしました(東京高裁平成6年8月4日)。

Aさんとしては、ピノちゃんのしつけが行き届いていることを他の居住者に訴え、多数派の理解を得て、「ピノちゃんを例外とする」との特例を認めてもらう方法が考えられるところです(モデルケースの裁判でも、「規約では全面禁止とした上で、例外的・個別的措置を定めることは合理的な対処方法である」と示していますし、飼い主の方も特例として飼育を認めてもらうよう、他の居住者に働きかけをしていたようです。)。

集合住宅は、様々な意見を持った人たちの集まりです。規約上「ペット飼育可」となっていても、その取り決めは多数居住者の理解のもとに成り立っているということ、理解を得られなくなればいつでもペット禁止とルール変更されてしまう可能性があることを自覚して、他の居住者に迷惑をかけないよう、疎まれないように、しつけやマナーをきちんと教えておく必要があるのです。

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プロフィール

石井 一旭
京都大学法学部卒業、京都大学法科大学院修了。現在、京都市内で弁護士として、交通事故・相続・債務整理・不動産・刑事・企業実務・登記・ペット問題等、幅広い分野を取り扱う。司法書士有資格者。

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