弁護士石井センセイのペット事件簿
第5回 自分が死んだら、残されたペットはどうなるのだろう…その1
京都で弁護士をされている石井一旭先生に、実際にあったペットに関連する事件をご紹介いただきます。
「ペットを愛する方々に楽しく法的知識を身につけていただき、弁護士を身近な相談相手として感じてもらいたいと思っております。」
「ブラン」というペルシャ猫を飼い続けているAさんは、最近大きな病気にかかり、先々に不安を覚えるようになっています。Aさんは奥さんに先立たれ、親族は一人息子のBさんがいるだけです。Bさんは、「もしAさんが亡くなっても自分がブランの面倒を見るよ。」と言ってくれていますが、それでもAさんは自分に万一のことがあった場合ブランちゃんがどうなってしまうのか心配でたまりません。
今や「超」高齢化社会となった現代日本ですが、高齢者に限らず、自分が亡くなった後にペットがどうなってしまうのか、不安に思っておられる方は多いのではないでしょうか。
自分の死後、ペットはどうなってしまうの?
この連載でも何度も繰り返してきましたとおり、ペットは法律上「物」として扱われますので、亡くなった方のペットは遺産の一部として相続の対象となり、ペットの所有権は相続人に移転します。つまり、相続人がペットの飼い主の座を引き継ぐわけです。
本件のAさんの場合、相続人は一人息子のBさんになりますが、Aさんとしては、「Bを疑うわけではないけれども、Bが果たしてブランの面倒をずっと見てくれるだろうか?適当に世話したり、もしかして捨ててしまったりしないだろうか?」…といったところでしょうか。不安は、考え始めるときりがありませんね。
どうすればいいだろうか?
自分が死んだ後も第三者がちゃんとペットの世話をし続けてもらえるような制度設計をしておくことが必要でしょう。具体的には、「負担付遺贈」または「負担付死因贈与」という方法を取ることが考えられます。
① 負担付遺贈
遺言で遺産の全部または一部を第三者(相続人も含む)に贈与することを「遺贈(いぞう)」と言います。「負担付遺贈」とは、遺贈をもらう人(受贈者)が一定の行為を負担することを内容とする遺贈のことです。
具体的には、「ブランちゃんが天寿を全うするまで面倒を見ること」といった負担を条件として自分の財産をBさん(あるいは他に信頼できる誰か)に渡す、という内容の遺言を作成するのです。なお、受贈者は遺贈された財産の範囲でしか負担履行の義務を負いませんので(民法1002条1項)、前提としてBさんが将来にわたってブランちゃんを飼い続けられるだけの遺産を渡しておく必要があります。
ただし、受贈者は遺言の効力発生後(つまりAさんが死んだ後)に遺贈を放棄する(遺贈を受け取らず、負担も履行しない)ことができてしまいますので(民法986条1項)、単に遺言に書いておくだけではなく、生前にきちんと受贈者に説明して、その理解を得ておく必要があります。
② 負担付死因贈与
死因贈与とは、贈与者が死亡することを条件として財産の全部または一部を贈与する契約です。契約なので、①と違い、生前に受贈者と合意しておく必要があります。「負担付」の意味は①と同じで、「贈与を受ける場合に受贈者にしてほしいこと」です。
この方法は、①に比べて、生前に細かく条件を設定できる点、一度締結してしまえば契約違反がない限り受贈者が一方的に放棄することができない点で優れているといえます。また契約=約束をいったん取り交わしているため、受贈者がきちんと負担を実行してくれる可能性も高いといえるでしょう。
なお、①②いずれの場合でも、受贈者が本当に負担を実行してくれるのか心配だということであれば、弁護士のような信頼できる第三者専門家を遺言執行者や監督者として選任しておけば、より安心でしょう。
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プロフィール
石井 一旭
京都大学法学部卒業、京都大学法科大学院修了。京都市内で「あさひ法律事務所」を開設、ペット問題をはじめとして、交通事故・相続・離婚・債務整理・不動産・企業実務・登記等、幅広い分野を取り扱う。司法書士有資格者。
あさひ法律事務所HP
https://www.asahilawfirm.com/
弁護士石井一旭のペット法律相談所
https://peraichi.com/landing_pages/view/lawyerishiipettrouble
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