弁護士石井センセイのペット事件簿

第15回 近づいてくるほうが悪い?・・・飼い主の責任について

弁護士石井センセイのペット事件簿

京都で弁護士をされている石井一旭先生に、実際にあったペットに関連する事件をご紹介いただきます。
「ペットを愛する方々に楽しく法的知識を身につけていただき、弁護士を身近な相談相手として感じてもらいたいと思っております。」


Xさんは雑種犬「うめ」を、自宅車庫の中につないで飼っていました。ある日、近くの小学校から下校中だった5年生Yちゃんが「うめ」を可愛がろうとして車庫に近づき、「うめ」を撫でようとしたところ、「うめ」がYちゃんに噛みついてケガをさせてしまいました。Xさんは、「つないでいたのに自分から近づいてきたYちゃんが悪い」として、治療費などの支払を拒否しています。(広島高裁松江支部平成15年10月24日判決参照)

1 動物占有者の責任

民法718条1項は「動物の占有者は、その動物が他人に加えた損害を賠償する責任を負う。ただし、動物の種類及び性質に従い相当の注意を持ってその管理をしたときは、この限りでない。」と定めています。
動物の占有者とは、動物を事実上支配している人物のことで、通常は飼い主を指しますが、他人に預けていた場合は、預かった人が占有者とされることもあります。

この条文によれば、Xさんは「うめ」の飼い主=動物の占有者として、Yちゃんが「うめ」から受けたケガの治療費や慰謝料などの賠償金を支払う責任を負うことになります。

2 Xさんは責任を免れるか?

Xさんは、「私は「うめ」をきちんとつないでいた。自分から近づいたYちゃんが悪い」と言っていますが、この言い分は通るでしょうか。

民法718条1項をもう一度見てください。「ただし、動物の種類及び性質に従い相当の注意をもってその管理をしたときは、この限りでない。」とあります。つまりXさんとしては、「私は相当の注意をもって「うめ」を管理していた」「だから賠償責任を負わない」と主張していることになります。

果たしてこの主張は通るでしょうか。

モデルとなった裁判例では、
・通行人が自由に車庫付近に近づけたこと
・車庫前の道路が多くの子どもが通る通学路であったこと
・問題の犬が過去にも人を噛んだことがあったこと
などから、飼い主は子どもが車庫に近づき犬に手を出して噛まれることも十分予見できたとし、それならば人が犬に近づかないような措置を講じる必要があったのに、それをしていなかった以上、相当の注意をもって管理していたとは言えないとして、飼い主には賠償責任があると判断しました。

このように、「相当の注意」が認められるためのハードルは大変高く(裁判官は動物を飼ったことがないのか、と疑われるレベルです)動物の占有者が「相当の注意をもって管理した」と主張しても、責任を免れた例はほとんどありません。動物の占有者の責任は「起こしてしまった結果について常に責任を取らなければならない結果責任に近い」と言われているゆえんです。

この連載でも何度も繰り返しお伝えしていますが、ペットのしつけの必要性、犬であればリードをきちんと付けておく、といった管理の重要性を再認識していただければと思います。

ただし、Yちゃんの側にも落ち度があれば、その落ち度については過失相殺がなされ、Xさんの賠償金額がその割合に応じて減少する可能性はあります。モデル例でも被害者は「犬にさわらないでください」という看板を認識していたとして、被害者に50%の過失相殺がなされました。

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プロフィール

石井 一旭
京都大学法学部卒業、京都大学法科大学院修了。京都市内で「あさひ法律事務所」を開設、ペット問題をはじめとして、交通事故・相続・離婚・債務整理・不動産・企業実務・登記等、幅広い分野を取り扱う。司法書士有資格者。

あさひ法律事務所HP
https://www.asahilawfirm.com/

弁護士石井一旭のペット法律相談所
https://peraichi.com/landing_pages/view/lawyerishiipettrouble

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