弁護士石井センセイのペット事件簿

第9回 ペットは一体だれの「物」なのか?

弁護士石井センセイのペット事件簿

京都で弁護士をされている石井一旭先生に、実際にあったペットに関連する事件をご紹介いただきます。
「ペットを愛する方々に楽しく法的知識を身につけていただき、弁護士を身近な相談相手として感じてもらいたいと思っております。」


XX年6月下旬、Aさんは公園で口輪をされ縛り付けられたレトリバーを見つけ、保護しました。警察に拾得届を出したAさんは、その後かいがいしくレトリバーを飼養していましたが、XX年9月中旬、本来の飼い主を名乗るBさんから、レトリバーを返してほしいと言われました。AさんはBさんにレトリバーを返さなければならないのでしょうか。
(参考・平成29年10月5日東京地裁判決)

「捨てられた物の法律上の扱い」

今回取り上げたケースは、皆さん見覚えがあるかもしれません。最近報道で話題になった事件を題材にこの問題を考えてみようと思います。

まず法律上の原則の紹介です。
第4回でも触れましたが、ペットは法律上「物」として取り扱われています。そこで「捨てられた物」に関する法律を見てみますと、故意に捨てられた物の拾得者は、無主物先占(民法239条1項)により直ちにその所有権を取得します。

逃げた・置き忘れた等、故意に捨てられていない物は「遺失物」となり、遺失物法及び民法の規定に従い、拾得の届出が公告された後3ヶ月以内に所有者が名乗り出なければ、その時点で拾得者が所有権を取得します。

実際の裁判経過

この事件では、その3ヶ月が経過する前に警察に遺失物の届出をした元飼い主(所有者)から、レトリバーは元飼い主の交際相手が捨てた「遺失物」であるとして、所有権に基づき返還請求がされました。この場合、3ヶ月以内に所有者が名乗り出ているため、元飼い主の所有権はまだ生きていますから、法律に従えば、元飼い主にレトリバーを返さなければならないことになります。
返還を求められた拾得者は、①元飼い主は交際相手の遺棄を黙認していて動物愛護法の精神に反しており、故意にレトリバーを捨てたに等しい、②返還による環境の変化は年老いたレトリバー(提訴の時点ですでに12歳、判決時には14歳)に過大なストレスをかける、元飼い主の請求は権利の濫用である、と反論して争いました。

ですが裁判では、①レトリバーを置き去りにしたのが元飼い主自身ではなかったこと、元飼い主もレトリバーを取り戻すために現場に探しに行ったり遺失物届を出すなど一応の努力をしていたこと、元飼い主はレトリバーが保護されたことをネットで知って犬の生命身体に重大な危険がないことを知っていたことから、所有権を放棄したとまでは言えないとされました。

また②については、やはりレトリバーを捨てたのが元飼い主自身ではないことから特に悪性が強い遺棄とは言えないこと、生活環境の変化についても元飼い主が愛情を持って今後飼育する準備を整えていることなどから、返還が社会通念上著しく不当とは言えない、として、いずれの反論も認めず、元飼い主にレトリバーを返せ、との判決を下しました(その後拾得者が控訴するも棄却、確定。)。

本件について

この判決に対しては、動物の気持ち・環境・権利を無視した不当判決だという意見が多く見られました。

本判決を精査しますと、理由中に「愛護動物が放置された場合において、その場所や態様等に照らし、その飼主が当該動物の生命、身体について重大な危険があることを認識しながらあえてこれを放置した等の事情が認められる場合には、その飼主の所有権放棄の意思が推認される場合がある」と示しています。
ですので、今回のケースにおけるBさんのように、犬に口輪をはめて縛り付けて放置するようなことをすれば、Bさんは所有権を放棄したと推認され、AさんはBさんにレトリバーを返さなくて良いとされるでしょう。

もっとも私は裁判所の要件はあまりにハードルが高いと思いますし、動物愛護法の精神を汲み取るというのなら、同法7条4項に定める「終生飼養の努力義務を放棄するに等しい行為をした(あるいは、努力しなかった)時点で飼い主の所有権放棄を推認して良いと思います。

また仮に裁判例の定義をそのまま用いたとしても、レトリバーの年齢を考えると公園での遺棄は「生命身体に重大な危険のある行為」に当たり、元飼い主がこれを黙認した点で所有権放棄を推認しても良かったのではないかと考えます。

しかしながら、問題とされたレトリバーの「本当の幸せ」はなんだったのでしょうか。裁判を経ても、それは当のレトリバー以外、誰にもわかりません。このことを思うと、司法・法律による動物問題の解決が本当に「解決」と言えるのか、虚しさを覚えます。
今となっては、ただ問題とされたレトリバー「めぐ」ちゃんが安らかに余生を過ごせることを願うばかりです。

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プロフィール

石井 一旭
京都大学法学部卒業、京都大学法科大学院修了。京都市内で「あさひ法律事務所」を開設、ペット問題をはじめとして、交通事故・相続・離婚・債務整理・不動産・企業実務・登記等、幅広い分野を取り扱う。司法書士有資格者。

あさひ法律事務所HP
https://www.asahilawfirm.com/

弁護士石井一旭のペット法律相談所
https://peraichi.com/landing_pages/view/lawyerishiipettrouble

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