ペットとシニア世代の関係

第7回 殺処分ゼロを実現するキーマンを探して…。

ペットとシニア世代の関係

ペットと終生ともに暮らすシニア世代の支援をされている、NPO法人ペットライフネットさんに日本のペットとシニア世代の関係、そして犬猫殺処分数の現状についてお話しいただきます。


こんにちは! ペットライフネットの吉本です。
2014年4月から【299navi】のトピックスに寄稿させていただいております。ご質問やご意見がありましたら、どんどんお寄せください。楽しみにお待ちしています。

平成25年度、日本の動物管理センターで殺処分されたペットは、16万頭。このすさまじい数字は、先進国として恥ずかしい限りです。動物愛護の考え方が広く深く浸透している海外の方の目に、日本は何とも野蛮な国とみられるにちがいありません。観光立国を目指す以上は、高濃度の二酸化炭素で窒息死させ焼却するという残酷な殺処分は回避したいところです。しかも、6年後には東京でオリンピックも開催されます。
こうした背景を受けて、今年6月から環境省では殺処分ゼロを目指す「人と動物が幸せに暮らす社会の実現プロジェクト」をスタートさせました。しかし果たして、4日間(大阪市動物管理センターの場合)収容しても引き取り手がみつからなかった犬や猫を殺処分してきた命を、そう簡単に救うことができるのでしょうか? 環境省の考えでは、自治体等と連携して管轄区域を越えて広域的な譲渡活動を行う。また、ボランティアとの連携で譲渡活動を推進すると言っていますが、その実現性は非常に厳しいものがあるのではないかと思えてなりません。というのも、16万頭の命を救うには、16万の譲渡先を開拓しておかなくてはならないからです。

  飼育頭数
(平成25年 ペットフード協会調べ)
動物愛護センターや保健所
(平成24年度 環境省調べ)
引き取り数 譲渡数 自治体での殺処分数
1,087万頭 7.2万頭 3.3万頭
(譲渡率:45.8%)
3.84万頭
(殺処分率:53.3%)
・所有者不明:5.5万頭
(成熟4.5万頭/幼齢1.0万頭)
・飼い主から:1.7万頭
(成熟1.4万頭/幼齢0.3万頭)
974万頭 13.8万頭 1.5万頭
(譲渡率:10.9%)
12.34万頭
(殺処分率:89.4%)
・所有者不明:10.54万頭
(成熟2.5万頭/幼齢8.0万頭)
・飼い主から:3.23万頭
(成熟1.3万頭/幼齢1.9万頭)
合計 2,061万頭 21.0万頭 4.8万頭
(譲渡率:22.9%)
16.2万頭

16万頭の譲渡先を考える前に、今の日本の犬猫たちの飼育状況をざっくりみてみることにしましょう。
毎年「全国犬・猫飼育実態調査」を実施している一般社団法人ペットフード協会によりますと、平成25年度の犬の飼育率は全世代で15.8%(前年16.8%)、猫は10.1%(前年10.2%)。犬の飼育率が年を追うごとに落ち込んできています。「ペットブーム」といわれたかつての風潮は確実に色あせてきています。
これを年代別にみますと、犬・猫ともに50代での飼育率が最も高く、次いで60代となっています。逆に飼育率の低い世代は犬も猫も、30代です。ペットは手厚い世話が必要です。お金もかかります。仕事や子育てで忙しい壮年期はペットを飼うだけの余裕がないと考えられます。一方、50代では、犬や猫を飼いはじめる世帯が増えています。今まで子どもに手がかかっていたのがようやく一段落し、犬や猫が飼えるゆとりが生まれてきたからでしょう。60代のペット飼育が多いのも、家計や時間のゆとりがあるからに他なりません。

○60代はペットロスで飼育率が低下する

しかし、ここで問題にしたいのは、どうして60代になると飼育率が落ちてくるのかという点です。
「全国犬・猫飼育実態調査」では、60代でペットを飼いたいが飼っていないという方にその理由を尋ねています。
犬の場合は、トップが「集合住宅に住み、ペットが禁止されているから」(17.9%)、2位は「ペットを亡くしたショックが癒えていないから」(17.1%)、3位は「十分に世話ができないから」(11.4%)。
猫の場合も「集合住宅に住み、ペットが禁止されているから」(28.4%)がダントツです。2位も犬と同じく「ペットを亡くしたショックが癒えていないから」(18.1%)、3位は「別れがつらいから」(12.5%)となっています。
犬の平均寿命は14.2歳、猫の平均寿命は15.0歳です(「全国犬・猫飼育実態調査」により)。50代前半で飼いはじめると60代半ばで、可愛がっていたペットを亡くすことになります。ペットとの別れは、老境にはいった60代にとって耐え難いほどの哀しみに襲われ、二度と飼わないと決心させるほど大きな精神的なストレスを引き起こしています。「ペットロス」が60代の飼育率低下を招いていると考えられます。

○高齢者がペットを飼うのをあきらめなかったら…

第5回「ペットロスに陥らないために…」で、「一頭よりも二頭!複数飼いが悲しみを癒す」に書きましたが、ペットロスを軽減するいちばんの方法は多頭飼いです。ドイツやイギリスなどでは犬よりも猫を飼う世帯が多く、2~3匹の複数飼育が多いと聞きます。
では、高齢者がペットロスに陥らずに新たにペットを飼うことになれば、果たして殺処分ゼロを可能にする16万頭の譲渡先が生まれるでしょうか?
日本人の健康寿命(介護を必要としないで、自立した生活ができる生存期間)は、男性で70.42歳、女性で73.62歳です。ペットの世話が問題なくできる年代は、70歳くらいと考えてもいいでしょう。
70歳までの高齢者人口(平成25年の65歳~69歳)をみてみると、869万人です。前出したペットフード協会のデータに基づき、60代でペットを飼っている人が50代の方と同じ数だけ飼うようになり、かつ猫は2頭飼いにすると仮定しますと
●犬の飼育増加可能数:869万人×(20.0%-16.4%)=約31.28万頭
●猫の飼育増加可能数:869万人×(11.8%-10.9%)×2=約15.64万頭
合計、46.92万頭です。

現在殺処分されている犬は、3.84万頭、猫は12.34万頭ですから、犬はまだまだ飼えるだけの余裕があることになります。猫も2頭飼いをすると殺処分されている頭数分は救われるという数字がでてきました。
従来、高齢者がペットの世話をするには散歩など体力的に問題があるとみなされ、保護されたペットの譲渡先としてあまり歓迎されない傾向があります。しかし、殺処分をゼロにするには、健康な高齢者にペット飼育を促す方向に舵を取るべきではないでしょうか。高齢者にとっても、ペットと暮らす生活は、生きがいをもたらします。高齢者にもペットにも幸せな社会が実現できると考えます。

次回からは、高齢者がペットを飼う意義を見直し、あわせて高齢者がペットを飼う場合の課題を考えていきたいと思います。

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