ペットとシニア世代の関係

第12回 高齢者とペットとの関係を描いた三冊

ペットとシニア世代の関係

ペットと終生ともに暮らすシニア世代の支援をされている、NPO法人ペットライフネットさんに日本のペットとシニア世代の関係、そして犬猫殺処分数の現状についてお話しいただきます。


こんにちは! ペットライフネットの吉本です。
今年の桜は、一晩で満開になり、足早に散っていきましたね。桜の季節がやってくると、人生の新しいページがめくられるような気分になります。ワクワクしますが、ちょっと不安にも駆られます。そんな時、私はこれから生きる上でヒントになりそうな本を探してみたくなるのですが、みなさんはいかがですか?
そこで今回は、「高齢者とペット」に関わる本をご紹介することにしましょう。

「吾輩は猫である」を筆頭に、犬や猫がでてくる小説、エッセイ、絵本、コミック、写真集は数えきれないほどたくさんあります。しかも、続々と新作がでてきています。犬や猫との暮らしは、私たちにとってかけがえのないものだからでしょうね。
では、高齢者とペットとの関係に焦点を絞ったものにどのような作品があるでしょう。
最近の話題作といえば、田舎のおばあちゃんとオッドアイの白猫を描いた伊原美代子さんの写真集「みさおとふくまるくん」がすぐに思い浮かびます。これ以外にも、私が絶対お薦め!の三冊をご紹介することにしましょう。

◎「犬心」 伊藤比呂美著 (文芸春秋)

伊藤比呂美さんといえば、「おっぱい」や「おしり」といった性や出産にまつわる言葉を連射的に繰り出し、独特の生死観を謳いあげる詩人として有名です。その伊藤さんが、14年間ともに暮らした愛犬タケ(ジャーマンシェパード)との最期の日々を綴ったのが、この「犬心」です。
若い頃は、「強くて大きくて、なんでもできた」タケが大好きな散歩を嫌がりはじめ、ついには歩きながらうんこを「ぽろりぽろり」。一日中、無表情で寝て暮らすようになります。そんななか、伊藤さんが長旅にでて戻ってきたシーンが次です。

「タケはたしかにがっくりと老いていた。でも気になったのは、タケの老い方よりも家の荒れ方、いや荒れ方といっても、無人のあばら家みたいなふうでない。現に人は住んでいる。ただ、何もかも犬仕様で、犬仕様ということは動物の巣穴のようで、人間の生活は二の次になっているのだ。なにより、おしっこ臭い。たまらなく臭い。」

「家の中にはいたるところにヨガ用マットが敷きつめてある。(中略)おしっこ用マットじゃないとわかっているタケも、外に出るのが間に合わずに、その上でじゃーっとおしっこを振りまいていく。くり返すが、タケにはこれがおしっこマットじゃなく、すべりどめであることがちゃんとわかっている。それで、床板ですべることがないように、念には念を入れて、マットとマットの隙間を飛び越えようとする。(中略)タケは飛びそこねて転ぶのだ。転んだときの、タケの無力な姿勢、悲しげな表情、救いのないもがき方、父がのりうつったみたいに父に似ている。
父が死ぬ二日前は、ずっとこんなふうだった。私は、父がもうすぐ死ぬなんて考えずに、ただ粛々とこんなふうに父のからだを抱えて、何度もだき起こした。もっと抱えることができた、タケをこうして抱えてやれるのだ、父のことももっと抱えてやればよかったと、詮ないことを考えながら、私はタケをだき起こす。」(第6章「タケの恋―私は旅にでていた」より)

鋭い観察眼でタケの老いる姿が容赦なく描かれています。しかも、このタケに父の老いを重ね合わせながら、老いることの残酷さ、切なさを全身で受け止め、抱きしめてしまおうとする伊藤さん。精一杯生きてきたタケ、そして父への愛おしさが胸を打ちます。生き物にとって避けることのできない「死」とは何か、ひるがえって「生」とは何かをあらためて考えさせられます。

ところで、伊藤さんのお父さんは亡くなるまで、ルイという11歳のパピヨンと一緒に暮らしていました。

「寂しい寂しいと訴えていた父が、『夜中にルイが寄りかかってくる、その重みと温もりだけがたしかなんだ』と何度も言った。」(第6章「タケの恋―ルイの感情、ニコの感情」より)

ルイは、伊藤さんが、父母2人だけの侘しい暮らしを考えて、押し付けた犬です。3年後にお母さんが他界。その後はお父さんとの1対1の生活ののなかで、お父さんから美味しいものをたっぷり食べさせてもらって、まるまる顔の肥満犬になってしまった。てんかんの持病に心臓、すい臓も悪い。そんなルイは、お父さんの死後、伊藤さんとの暮らしにスムーズに適応し、お父さんを忘れたかのように見えた。ところが、たまたま老人ホーム行く用があって、入り口にルイをつないでおいたら、杖をついた老人がでてきてルイにかまい、クルマに乗り込んだ。その時、いつもは大人しいルイが後を追って吠えたといいます。
高齢者にとって犬や猫の存在は、「食べること」「寝ること」「遊ぶこと」といった「生きる歓び」を実感するかけがえのないものだったことが伝わってきます。

◎「独女日記」 藤堂志津子著 (幻冬舎文庫)

直木賞作家、藤堂志津子さんには「秋の猫」という小説があるように、犬や猫とのふれあいを通じて男と女の微妙な心の揺らぎを描くのが得意な方です。この「独女日記」は、その藤堂さんがヨークシャー・テリアの<はな>との日常を綴ったエッセーです。
61歳の藤堂さんの暮らしは、好奇心が旺盛な1歳の<はな>を中心に回っています。食事も散歩も買い物も、全てが<はな>を抜きには語れない毎日が、丁寧に、時にはユーモラスに語られています。<はな>は、藤堂さんにとって近隣をはじめ社会との接点を創り出し、暮らしを豊かに彩るかけがえのない存在です。
一人暮らしの高齢者の女性(=独女)が、団塊世代の高齢化に伴い急速に増えてくるといわれています。そうした「独女」が、社会との絆をうしなわないためにも、伴侶動物の存在意義はますます重要になってくるのではないでしょうか。

◎「ポテト・スープが大好きな猫」 作:テリー・ファリッシュ 訳:村上春樹 (講談社)

小説家・翻訳家の村上春樹さんといえば、猫好きで有名です。その村上さんがアメリカの街を散歩していて偶然にみつけた絵本が、この「ポテト・スープが大好きな猫」。漁師のおじいさんと年老いた雌猫との、思いやりから生じた誤解による別れと再会のお話です。
村上さんが「あとがき」にこんなことを書いています。

「この物語に出てくる年取った雌猫のキャラクターはとりわけ魅力的です。僕は年取った雌猫を何度も飼った(というか一緒に暮らした)ことがあるので、その雰囲気はとてもよくわかります。年取った雌猫はだいたいにおいて気むずかしくて、すぐムッと腹を立てるのだけれど、感情が細やかで(きげんの良いときは)とても心優しくて、深く気持ちを通じ合わせることができます。」

年をとると、人も動物も気むずかしくなっていきます。しかし、心の底には人一倍相手を思いやる豊かな感情と温かなものを持っているものです。ちょっとした人間関係のもつれに悩んだときに、この絵本を読んでみるのもいいのではないでしょうか。

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