ペットのトラブル法律相談所

CASE7 動物病院で、全身麻酔の死亡リスクに関する同意書を渡されたのですが・・・

ペットのトラブル法律相談所

i法律事務所の川内康雄先生がペットのトラブルに関するお悩み相談にわかりやすくお答えします!


動物病院で、全身麻酔の死亡リスクに関する同意書を渡されたのですが・・・

3歳の雄のウェルシュ・コーギーの飼い主です。
今回去勢をしようと決断し、動物病院に行ったのですが、全身麻酔が必要と聞かされました。
そして全身麻酔はアレルギーによる死亡のリスクがあるので、同意書に署名しないと、手術ができないと言われたのです。同意書には「もし麻酔アレルギーで犬が死んでも責任を問いません」という趣旨のことが書いてあり、怖くなって手術を依頼せずに帰ってきました。
この同意書に署名してしまうと、もし麻酔で死んでしまったとしても、何の補償もしてもらえないのでしょうか?


麻酔の実施プロセスにおいて、担当の獣医師に過失があったかどうかによって結論が変わってきます。

日本には消費者契約法という法律があり、その中で消費者と事業者の契約のルールが定められています。そして消費者契約法の8条では、消費者と事業者の契約において、事業者の責任を一方的に免除するような契約の条項は無効になるとされています。

たとえば獣医師の医療ミスがあった場合、その獣医師は飼い主に対して、民法により「不法行為責任」という損害賠償責任を負います。ここで飼い主と獣医師が契約(手術の依頼も契約で、獣医師の同意書も契約です)において、医療ミスの責任の免除を合意したとします。

しかし消費者契約法8条1項3号では、不法行為責任を免除する契約は無効とされています。
話がややこしいのですが、「責任の免除」が「できない」ということですから、本来の民法定めの通り、責任を負うということになります。つまり、責任免除の同意書に署名をしたとしても、獣医師にミスがあったのであれば、同意書が無効になって、責任を追及できるということです。

ただここで気をつけて頂かないといけないのは、この結論は「獣医師に医療ミスがあった場合」の話です。

麻酔に対してアレルギーがある犬に麻酔を接種したときに重篤な障害が発生することそれ自体は、現代の医学・薬学の限界であって、獣医師個人の努力でどうにかなるものではありません。そのため「接種で障害が発生した」それ自体を医療ミスであるとは捕らえることができません。

一方、アレルギーは、事前の血液検査等によって、ある程度予測ができますから、麻酔接種の適否を事前に判断可能です。そのためそのような事前検査が可能であるにもかかわらず、それを怠り、麻酔アレルギーを見逃して、その結果として犬が死亡してしまった場合には、「検査をしなかったこと」を医療ミスであると主張できる可能性が高くなります。ただ犬種によっては事前検査を行う事が獣医学上の当然の義務であるとは限らないようですから、実際の責任の有無は、場合によりけりだと思います。

もちろん医療ミスはアレルギーだけとは限りませんから、例えば、使用する麻酔薬の選択ミスであるとか、投与量の間違いとかもあり得るでしょう。これらについても「獣医師として当然負う義務」に違反したかどうかが判断の分かれ目です。医療ミスであればやはり責任は問えますし、もともと医療ミスといえないのであれば、責任は問えません。いずれにせよ人間の医療と同様、インフォームドコンセント、つまり、十分に説明がなされた上での、納得診療が必要でしょう。

担当の獣医師さんと、事前検査を実施するのか、検査をしても残るリスクにはどういったものがあるのか、その程度はどの程度なのかを十分に説明してもらった上で、手術を実施してもらいたいと思います。
そのような説明があれば、同意書に対する不安も大分と和らぐはずです。

バックナンバー

プロフィール

i法律事務所 川内康雄弁護士
大阪弁護士会所属。ITや知的財産に関連する事案を多く取り扱う。

こちらもおすすめ

page top