ペットのトラブル法律相談所
CASE4 犬に狂犬病の予防接種を受けさせなかった場合、どうなるのでしょうか?
i法律事務所の川内康雄先生がペットのトラブルに関するお悩み相談にわかりやすくお答えします!
犬に狂犬病の予防接種を受けさせなかった場合、どうなるのでしょうか?
私は紀州犬の愛好者です。
法律上、犬に狂犬病の予防接種を受けさせないといけないことはわかっているのですが、数を飼っていると、受けるのが遅れる犬が出てきてしまいます。受けさせなかった場合、どうなるのでしょうか?
もし自分の犬が狂犬病になって人を噛んだ場合、その人が死んでしまうと殺人罪で投獄されるのかと心配です。
御指摘の通り、犬の所有者は、所有している犬に狂犬病の予防接種を受けさせる義務があります。
受けさせなければ、最大で20万円の罰金が科せられます。とは言っても、ある調査によると、現在、予防接種の接種率はおよそ50%程度のようです。
つまり市中の犬のおよそ半分は、予防接種を受けていないということになります。
色々な原因があるとは思われますが、法律上の義務の認知不足や、狂犬病に対する危機意識の低下等が原因でしょう。
予防接種を受けていないことを原因にして罰金が科せられたというケースを聞くことはあまりありません。
これにも色々な原因があるでしょうが、登録をしていない犬については、行政がその存在を認知することができませんし、日本に存在している犬の全てについて、逐一接種の実施をチェックすることができないことも原因でしょう。
では、どうせ罰せられないのだからと接種をしないままにしてもいいのでしょうか。
道義的な観点からは獣医師会が、公衆衛生の観点からは厚労省が再三告知しているところですので、ここでは法律の観点から説明を加えてみたいと思います。
狂犬病はヒトに発症すると致死率がほぼ100%という恐ろしい病気です。
「感染後にワクチンを接種すれば100%防げるのだから恐れる事は無い」という論もあるようですが、感染に気づくことができることや、ワクチンの接種が発症までに行える保証はどこにもないので、やはり、絶対に感染させてはいけないウイルスと考えるべきしょう。
多くの裁判例では、人を噛む可能性がある犬について適切な管理をしなかった結果、犬が人を噛んだ場合には、飼い主が損害賠償責任を負うとされています。
すると、仮に犬が狂犬病に感染していて噛んだ人に感染させ、発症させてしまった場合には、被害者の死について賠償責任を負うことになります。
というのも、法律上、原因と相当な因果関係のある損害はすべて損害賠償の対象となるからです。
死亡時の損害賠償は、その人が将来稼得することができた収入の総額です。生活費を控除することはできますが、相当な金額となる事は間違いありません。
保険に入っていなければ、普通の飼い主には賠償すること自体ができない金額でしょう。
つまり何かあったときには、責任をとることすらできなくなるということです。
損害賠償の他に、刑事問題があります。刑事問題というのは、懲役や罰金が科せられるかどうかという問題です。
犬をわざとけしかけて人を噛ませたという場合でなければ、殺人罪(最高刑は死刑)が成立することはありません。
犬の管理に過失があって人を噛んだ場合には「業務上過失致死傷罪」が成立します。家庭で飼っているペットの問題で「業務上」というのは違和感があると思います。
もっとも、法律上の「業務上」の意味は、「仕事で」という意味では無く、「日常繰り返し行うこと」という意味なので、「毎日行うペットの飼育」で成立するのです。
業務上過失致死傷罪は最大で5年の懲役が科されることになる重い罪です。罰金刑で済む場合もありますが、「前科」になることには違いが無く、飼い主の一生に、大きな影響を与えることになります。
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