ペットのトラブル法律相談所
CASE10 ペットの「買い換え」ってできるの?
i法律事務所の川内康雄先生がペットのトラブルに関するお悩み相談にわかりやすくお答えします!
ペットの「買い換え」ってできるの?
となりに住んでいるおじさんがシニアの柴犬を飼っています。おじさんもおじさんなりにその犬を可愛がっているとは思うのですが、柴犬は私にとても親近感を覚えていてくれているようで、家の前を通る度に、しっぽを振りながら駆け寄ってきてくれます。
昨日もその柴犬をあやしていたら、おじいさんが話しかけてきて、「もうこの犬は年だから、ペットショップに返して、新しい犬を買うことにする」という話を聞きました。
私はびっくりしてしまいました。犬は生き物なんですから、買い換えなんて許されないと思っていました。そんなことが可能なのでしょうか。処分されるのが目に見えていますので何とか止められないものかと思います。私が引き取れればいいのですが、家の事情で犬を飼うことはできません。
動物愛護法が平成25年に改正され、犬の飼い主やペットショップは、飼っている又は管理している犬について、寿命が尽きるまでは、面倒を見ないといけないことが義務化されました(法7条4項・22条の4)。つまり犬が年老いたからといって、飼育を放棄したり、処分したりすることはできないということです。これに合わせて、保健所でも、愛護動物が殺処分に持ち込まれた際には、処分を必要とする理由を確認することになりました。
動物の愛護及び管理に関する法律
(昭和四十八年十月一日法律第百五号)
(動物の所有者又は占有者の責務等)
第七条4
動物の所有者は、その所有する動物の飼養又は保管の目的等を達する上で支障を及ぼさない範囲で、できる限り、当該動物がその命を終えるまで適切に飼養すること(以下「終生飼養」という。)に努めなければならない。
(終生飼養の確保)
第二十二条の四
犬猫等販売業者は、やむを得ない場合を除き、販売の用に供することが困難となった犬猫等についても、引き続き、当該犬猫等の終生飼養の確保を図らなければならない。
もっとも買主の義務は努力義務に止まっています。法律上努力義務というのは、確かに義務はあるのだけれども、誰もその義務を強制できないし、義務に違反したからといって、処罰されるわけでは無いということです。ですので老犬になったからという理由で遺棄したとしても何らかの処罰がされる訳ではありません。また譲渡はもともと禁止されていませんから、「ペットショップに売る」という名目であれば、この努力義務にも違反しない可能性があります。
販売業者の義務は通常の義務規定です。ですが現在の所、義務に対応する罰則規定がありませんので事実上、努力義務に近いです。
ご質問中の「ペットショップに返す」というのは、ペットショップが引き取るということだと思いますが、ご指摘の通り、ペットショップがその老犬を死ぬまで面倒を見ることを前提にして引き取っているとは考えにくいです。恐らくは愛護団体等に引き渡すとか、個人名義で隠れて保健所に持ち込むのでしょう。愛護団体に引き渡して飼育されるのであればまだよいのですが、殺処分させるとなると、法令違反に該当します。
そこで直接の罰則規定は無いのですが、登録取消になる事をペットショップに警告するということはあり得る方法でしょう。法19条1項6号の定めにより、法令に違反したときには、動物取扱業者の登録が取り消されることになっています。ここでいう法令には終生飼養義務の規定も含まれます。
ですのでそのおじいさんが持ち込もうとしているペットショップに連絡を取り、ピンシャーのその後について尋ね、その話の中で、法律の改正と登録の取消に触れておくというのが、今できる最大限の手段だと思います。
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