ペットとシニア世代の関係

第11回 ペットが飼える老人ホームを!

ペットとシニア世代の関係

ペットと終生ともに暮らすシニア世代の支援をされている、NPO法人ペットライフネットさんに日本のペットとシニア世代の関係、そして犬猫殺処分数の現状についてお話しいただきます。


こんにちは! ペットライフネットの吉本です。
前々回でペットの所有権を放棄する理由のトップは「飼い主の死亡・病気・入院」で26.8%。「所有放棄をする人の年齢」は、60代が31.5%、70代が24.8%となり、60代以上が実に56.3%(2013年、第34回動物臨床医学会)。犬の飼育をあきらめ、保健所や愛護団体に持ち込む方の半数以上が高齢者である現実を紹介しました。そして、そんな高齢者にペットを飼う資格はあるのかどうか、その飼い方や飼育費用について考えてきました。
今回は、ペットを飼い続けたくても所有権を放棄しなくてはならないケースについて考えてみましょう。それは、老人ホームへの入所が決まったものの、ペット不可で泣く泣くペットを手放したという話があまりにもよく耳にするからです。

2月25日、ペットサロンおかたに(http://www.pet-okatani.com/)さんが実施されている「アニマルセラピー」に参加させていただきました。堺の老人施設「堺ラ・メール」に、13歳のラブラドールを筆頭に生後4か月のプードルまで、老若取り混ぜてのワンちゃん9頭とボランティア8名で訪問しました。

◎表情が生き返る「アニマルセラピー」

3階のホールに40人近いお年よりが待ち構えておられて、大きなラブラドールが先頭を切って走り出ると一挙に館内がざわめきます。小さいプードルが追いかけて走り回ると、手をさしのべる方たちも。ワンちゃんたちの簡単な紹介の後、ボランティアがワンちゃんを抱っこして、入所者の方一人ひとりに話しかけました。「相好を崩す」という言葉がありますが、ワンちゃんをまじかにみると表情はいっぺんに和らぎます。入所者の方のほとんどは要介護で、その手に触れると冷たく強張っています。そんな状態でもワンちゃんを抱っこすると、不自由な手でこわごわ頭をなで、慣れてくるとおなかにも手をやり、「柔らかい」「あったか」と。時には手放すのが嫌で「部屋に連れて帰りたい」とおっしゃる方も。また、「家に柴犬がいるの」と写真を見せてくれる方、「2年前に(愛犬が)亡くなった」と話しかけてくる方、幾度も幾度もワンちゃんに顔を摺り寄せて写真のポーズをとられる方…。その反響の大きさに驚きました。
3階で30分のセッションが終わると、2階に移動。ここでも30人以上の入所者の方々が待ち受けていました。ワンちゃんを抱っこしながら一人ずつ話をしていくと、さすがにワンちゃんも疲れたのか、カラダが強張っていくように思えました、しかし、ワンちゃんたちは駄々を捏ねるわけでもなく、尾っぽをしっかり振って健気にふるまってくれました。
この「アニマルセラピー」のボランティアを主催してくださった岡谷宏三さんによると、10年前は老人施設に「アニマルセラピー」の活動を申し出てもほとんど受け入れられなかったそうです。ようやくここにきてコンパニオン・アニマル(伴侶動物)に対する認識が拡がり、老人施設の方から申し込みが来るようになったとのことです。

◎ドイツの老人施設の25%が動物を受け入れている

ところで、ペット先進国ともいえるドイツの老人施設では、コンパニオン・アニマルの受け入れ体制はどうなっているのでしょうか。
ドイツでは1986年の動物保護法が改正されて、動物は人間と等しい「被造物」と認められました。しかも、動物保護は憲法と同等とみなされるくらい重要視されています。そのため、動物特有の素質や行動、欲求が尊重されています。コンパニオン・アニマルとの暮らしにおいても、動物は人間に癒しを与える道具、使役動物といった発想ではなく、あくまでも人間と対等な「助力者」、パートナー、奉仕を強要される存在ではありません。「精神的にも自由かつ健全で心理的にも満ち足りた動物だけが、人の心に直接触れて響かせるような、この上ない『奇蹟』を起こすことができる。人間の福祉以前に動物の福祉がまず実現していなくては、ほんとうの意味で動物と理解しあい動物の助けを借りるのは不可能だ」(「老後を動物と生きる」M.ヤング/D.C.ターナー著小竹澄栄訳)と、訳者の小竹澄栄氏は「訳者あとがき」述べておられます。
第二回マインシャツツシンポジュウム「ペットと老後を考える~ドイツに学ぶ ともに老いる"豊かな暮らし"」によりますと、現在、動物を受け入れている老人施設は25%にものぼり、飼い主もペットも幸せになる老人ホームが求められているようです。

◎犬や猫を飼う普通の生活がおくれる老人施設

日本の場合は、「アニマルセラピー」のボランティア活動がようやく社会的にも認められるようになったばかりですから、ペットと一緒に暮らせる老人施設はまだまだわずかです。
そんななか、横須賀市にある特別養護老人ホーム「さくらの里 山科」が注目を浴びています。ここでは、入居者ができるだけ"入居前と同じような生活をおくる"を目標に施設運営がなされています。
施設長の若山三千彦さんは、ペットと暮らしてきた高齢者が要介護状態になり、ペットの世話ができなくなったために、ペットを保健所に持っていくという切実なケースを目の当たりにされてきました。高齢者にとってペットは家族であり、心の支えです。ペットを飼っている高齢者が入居前と同じような生活が送れるよう、動物と一緒に入居できる施設を創ろうと考えたといいます。
建設計画時から、動物と暮らしたい希望者用に「犬ユニット」「猫ユニット」の間取りを想定し、動物が苦手な人やアレルギーがある人とは接触しないよう配慮されています。また、犬の散歩はスタッフや近所のボランティアがサポート。犬猫の医療費はかさむが、それ以上に入居者が元気で明るくなり、大きな成果がでているといいます。
「さくらの里 山科」のような特別養護老人ホームは、日本ではまだまだ珍しい施設です。しかし、超高齢化が進むとともに、老人の一人暮らしも急増します。社会から孤立、断絶し、寂しく生を終えるのではなく、ペットを通じて社会とかかわり、自分自身の生きがいを見出す、そんな老後が送れる社会になってほしいと願います。

この項は、「SUUMジャーナル」嘉屋恭子さんの原稿を基にしました。
http://suumo.jp/journal/2014/06/24/64762/

※写真は、2015.2.26の「堺ラ・メール」でのアニマルセラピーの様子です。

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