ペットとシニア世代の関係

第9回 ペットの飼育放棄をする高齢者

ペットとシニア世代の関係

ペットと終生ともに暮らすシニア世代の支援をされている、NPO法人ペットライフネットさんに日本のペットとシニア世代の関係、そして犬猫殺処分数の現状についてお話しいただきます。


こんにちは! ペットライフネットの吉本です。
ペットライフネットは高齢者のペット飼育支援をはかり、「ペットと一緒に元気な老後」がおくれる社会をつくりたいと願っています。そのため、高齢者にとってペットを飼うことの素晴らしさをアピールしてきました。しかし、果たして高齢者がペットを飼うことを手放しに推奨してもよいものでしょうか?今回は、高齢者がペットを飼うことによる影の部分に目を向けたいと思います。

2013年に開かれた第34回動物臨床医学会でショッキングなデータが公開されました。それは、奥田順之先生たちによる「犬の飼育放棄問題に関する調査から考察した飼育放棄の背景と対策」という保健所及び動物愛護団体へのアンケートが基になった論文です。
保健所や動物愛護団体に持ち込まれた犬は、公園や山里などでみつかった「飼い主不明」が73.7%。一方、もう飼いきれないので引き取ってほしいと持ち込まれた「所有者放棄」が26.3%の二分されます。

問題は「所有者放棄」です。
その理由のトップは、「飼い主の死亡・病気・入院」で26.8%。これを裏付けるのが、「所有放棄をする人の年齢」です。
60代が31.5%、70代が24.8%となり、60代以上が実に56.3%。犬の飼育をあきらめ、保健所や愛護団体に持ち込む方の半数以上が高齢者という結果になっています。
高齢化社会の急進展を背景にこの傾向はますます強まると言われています。

高齢者にペットを飼う資格はあるのか?

高齢者がペットの飼育を放棄するケースが多いという実態を踏まえてなのでしょう。動物愛護団体の多くは、高齢者がペットの譲渡を願い出てもなかなか認可してくれません。昨年施行された動物愛護管理法では飼い主の終生飼育が義務付けられましたが、これが高齢者への譲渡を阻む大きな理由としてあげられるようになってきました。
ペットの寿命が近年大きく伸びています。犬なら16歳ぐらい。完全室内飼いの猫なら20歳くらいまで生きます。自分の余命と照らし合わせた場合、良識ある高齢者なら終生飼育ができないと二の足を踏んでしまうでしょう。
しかし、愛護団体が高齢者にペットの譲渡を厭うには、単に寿命だけはない、もっと大きな問題があるのではないかと思えてなりません。そうでないと、高齢者はペットを飼う資格がないことになってしまいます。

仔犬、仔猫にこだわる高齢者

動物愛護団体で譲渡してもらえなかった高齢者は、生体販売をしているペットショップでお気に入りのペットを買い求めます。ペットを飼うことがどういうことなのかを考えることをしないで、安易にペットを手にいれます。ところが、ペットをうまくしつけることができず、ペットとの信頼関係も築けず、飼育放棄をするという悪循環に陥ってしまいます。しかも、動物愛護管理法の改正で保健所に持ち込むことができなくなり、その受け皿として動物愛護団体を活用するというケースが増えています。
そこで、動物愛護団体の方に、高齢者に保護している動物たちを譲渡したくない、その本音を聴かせてほしいとお願いしました。

< 動物愛護団体の方が、高齢者にペットを譲渡したくないと思う理由 >

- 犬の場合 -

①高齢者は、仔犬から飼わないとなつかないと思い込んでいる。

⇒犬のしつけは、飼い主と犬が一緒にトレーニングを受けなくてはならない。
⇒トレーニングには瞬発力が必要。高齢者の体力にあわないケースが多い。
⇒結局、しつけられなくて飼えない(保健所に持ち込むか愛護団体に戻される)。
⇒そのため、仔犬の譲渡は60歳までの方に設定している。

②高齢者は、シニア犬を飼うのを嫌がる傾向にある。

⇒高齢者にとって早く老いていく犬をみるのは忍びない。
⇒しかし、シニア犬はしつけもできていて、性格も決まっているので飼いやすい。
⇒現実は、愛護団体で救われても10歳をこえるシニア犬は引き取り手(里親)がいない。

- 猫の場合 -

①猫の多頭飼いが多い。

⇒ひとり暮らしの女性の高齢者に猫の多頭飼い(アニマルホーディング)が多い。
⇒適切な飼育環境を維持できず、不潔ななか栄養失調に陥っている。
⇒経済的にも破たんした場合は、多頭飼い崩壊となりボランティアに頼ることになる。

②室内、室外の出入りを自由にしているケースが多い(完全室内飼いの重要性が理解できない)。

⇒猫が外を見ているのを外出したいのだと思い込んでいる。
⇒猫が出るから止められないと言う。猫の主体性を認め過ぎ。しつけが分かっていない。
⇒猫の瞬発力はすごいので、外に出ようとした猫をカバーできず、高齢者がケガをする事故が多い。
⇒外で遊んでくると猫同志の喧嘩でエイズなどを患うことがある。
⇒外で遊ぶとノミ、ダニを室内に持ち込む。飼い主自身も被害を受ける。

③高齢者ほど仔猫を欲しがる。

⇒小さくないと飼い主に馴れない、懐かないと誤解している。
⇒避妊・去勢手術した成猫が飼いやすいといっても、やっぱり仔猫から飼いたいという。
⇒もらった仔猫が暴れて夜眠れない苦情をいう。
⇒性格の決まっていない仔猫なのに、甘えん坊の膝乗り猫がほしいという。
⇒他の人が飼っていた猫は、昔の飼い主と比べられるようで嫌だという。

④避妊・去勢に消極的。

⇒避妊・去勢は猫に可哀そうだと思っている。
⇒発情がはじまって、うるさくなると苦情をいう。
⇒雄猫のスプレー行為に対処法がわからず、悪臭に困り果てる。

⑤猫は死ぬ時には姿を見せないと思い込んでいる。

- 犬・猫に共通の問題 -

①昔ながらの飼い方をする。

⇒飼育書も読まないで、昔ながらの飼い方で幸せだと思っている。
⇒犬の番犬、猫の外飼いが当然だと思っている。
⇒犬や猫のしつけや病気に無関心。トレーナーをつけたり、動物病院に行ったりすることを億劫がる。

②保護された犬猫をもらってやっていると思っている。

⇒高齢者はなまじ過去の飼育経験があるため、ボランティアのアドバイスを聞かない。
⇒里親審査に腹を立てる人が多い。ペットが飼えるかどうかを判断するのは里親になる自分だと思い込んでいる。里親詐欺や動物虐待などがあるから審査や契約をするのを理解しない。
⇒ボランティアの活動は無料だと思っている。そのくせ、何かあればボランティアが何とかしてくれると期待している。

動物愛護活動をされている方々の高齢者に対するご意見は、「高齢者がペット終生ともに暮らす社会」をめざすペットライフネットにとっては、絶望的なまでに厳しいものばかりです。今のこの現実を踏まえた上で、高齢者がペットと共に暮らすには、どのように自分自身の意識を変え、何をしなくてはならないのかを改めて考えたいと思います。そして、"ペットを飼う資格がある高齢者"をひとりでも多く生み出していきたいと願っています。

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