旅する獣医師TONOの動物イロイロコラム

フィラリア症の予防ってした方がいいの?症状は?予防時期は?

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〜日本では獣医師。世界では旅人。〜

世界一周や日本縦断を経験した“旅する獣医師とうの”さんが、日頃のペットの健康や病気に関するアドバイスから、世界の動物たちのリアルな日常まで分かりやすくお話していくコラムです。
自分のペットの事を知り、世界の動物事情を知ることで、よりペットと暮らしやすい日本を一緒に目指しましょう!


みなさんこんにちは。
旅する獣医師とうのです。

皆さん、“フィラリア”って聞いたことありますか??
ワンちゃんが家族にいる方はきっと一度は聞いたことがあるはず。

犬猫を死に至らしめる恐ろしい病気であり、人に感染するという事例もあります。

タイトルにある「フィラリア症の予防はしたほうが良いの?」という質問ですが、さっそく結論から言うと、フィラリア症予防はしておいた方がいいです!

今日はフィラリアについてのあれこれと、私が実際に病院で経験した“予防をしていなかった子”の様子と、“じゃあ具体的にいつから予防すれば良いの?”というところを、詳しくお話していきます。

フィラリアとは

フィラリアとは“犬糸状虫”という寄生虫のこと。その名の通り、太い糸のような寄生虫です。犬糸状虫は蚊を介して主に血液に感染し増殖。最終的に心臓や心臓から肺に伸びる血管(肺動脈)に大量寄生して、犬を死に至らしめる可能性のある病気です。

※“犬”と名前にありますが、実は猫ちゃんにも感染します。猫ちゃんの場合、ワンちゃんほど体内で虫の数が増えることはないのですが、呼吸器疾患などで突然死を起こすと報告されていて、最近では猫ちゃんのフィラリア予防も推奨されています。

フィラリア症の症状

・元気消失、食欲減退
・咳、喀血
・呼吸困難
・腹水
・血尿
・肝腫大
・死亡

フィラリア症は感染してすぐは無症状です。その後、時間をかけてじわじわと症状があらわれ、真綿で首を絞められるように徐々に苦しみが増していって、最終的にひどい苦しみの中で亡くなる本当に恐ろしい病気です・・・

フィラリア症と犬の寿命

このフィラリア症はワンちゃんの寿命に大きく関わっています。今から30年ほど前まではワンちゃんの平均寿命は10歳前後でした。でも今では約14歳。人間の寿命に換算すると20年分くらいは寿命が延びたことになります。

この大きな寿命の変化は、飼い方の変化や獣医療の向上が鍵になっています。室内飼いが増え病気に気づくことから始まり、病気を治す技術も向上しました。また、病気になる前の予防獣医療の発達もとても大きな変化です。

フィラリア症を予防する習慣が一般的ではなかった30年前は、フィラリア症で若くして命を落とすケースも多くあったそうです。しかし、フィラリアの予防が当たり前になってきた昨今では、珍しい病気と言ってもいいくらいに減ってきました。

とは言っても、夏場は常に蚊はいますし、病院でもフィラリア症と診断される犬たちが実は結構な数います。

フィラリア症の実例

私が実際に病院で出逢ったフィラリア症のワンコたちのお話をします。

私が実習生だった頃、中型犬の犬が診察にやってきました。お腹がポッコリ腫れて、息はゼーゼーと苦しそうです。自分で立ち上がることもできずに、飼い主さんに抱えられてすぐに処置室へ。

あまりにも苦しそうなので、院長はすぐさまお腹に針を刺しました。そこからは水がジャンジャンと流れてきます。そう、「腹水」です。

フィラリア症は悪化すると体の血液(水分)の流れを妨げ、腹水や浮腫として出てくるようになります。

院長はすぐに心臓に寄生したフィラリアを取り出す手術を提案しましたが、手術は高額で、本人の状態も良くないために麻酔のリスクも高いということで、飼い主様は手術を断念しました。

もう長くはないだろう・・・ということで、自宅で過ごしたいとの意向もあり、飼い主様は愛犬を自宅に連れて帰られました。

実際に臨床現場に立ってからも、同じようなフィラリア症の患者さんを見ることがありました。息も絶え絶え、本当に苦しそう。いつも「フィラリアの予防さえしていれば・・・」と飼い主さんは後悔されます。

フィラリア症の治療方法

・外科的な摘出

長い専用の鉗子(器具)を使って取り出します。麻酔をかけ、リスクのある手術となるために全ての患者さんが治療を受けられるわけではありません。また、専用の器具であるため、全国全ての病院に置いてあるわけではありません。

・駆虫薬の投与

虫を殺すという意味ではダイレクトな方法ですが、成虫が大量死すると大きな血管に詰まって急性の循環器症状で犬が亡くなる可能性や、ミクロフィラリアの大量死によるショック症状が起きる可能性があるため、慎重な治療が必要です。

・予防薬を長期間投与

これは直接的な治療ではなく、新しく生まれてくる子虫たちを殺し、成虫の寿命が尽きるのを待って徐々に減らしていくという方法です。フィラリア成虫の寿命は5〜6年ですから、この間に病状が進行する可能性も十分にあります。

・対症療法

いずれの治療も困難な場合に、症状を緩和するという目的で腹水の除去などの処置を行います。根本的な治療ではありません。

上記のように、一度フィラリアに感染してしまうと治療はかなりの難を要します。犬体内でのフィラリアの寿命は5〜6年と長いため、たとえ軽症であっても治療に時間がかかりますし、一度影響を受けた心臓などの臓器が元に戻るわけではありません。

フィラリア症の予防の時期

こんなに恐ろしいフィラリア症ですが、皆さん既にご存知の通り、予防することができます。

病院で購入できる「フィラリア症予防薬(幼虫駆除薬)」を毎月あげるだけです。

体内に入った幼虫を毎月駆除することで成虫になるのを妨げ、フィラリア症を予防します。(感染すること自体は予防できませんが、フィラリアによって起きる「フィラリア症」は予防できます。)

この予防薬を蚊の現れる月から、蚊がいなくなる次の月まで予防します。日本では4〜5月から12月の間が一般的な投薬月です。ただし、最近では冬場に入っても蚊が見られる地域があるので、地域の獣医さんと相談して投薬月を決めるといいでしょう。(地域や病院によって若干の差があります。)

また、投薬前にはフィラリア検査をする必要があります。その時点でフィラリアに感染していないかの検査です。

飲み忘れや時期のズレなどで、もし万が一感染してしまっていた場合に薬を飲むと、体内でフィラリアの大量死が起きてショック状態になる可能性があるので、自己判断で投薬を開始するのはかなり危険です。毎年必ず病院で投薬について相談し、処方してもらいましょう。

毎月飲むタイプの予防薬は体に蓄積されないですし、同じ薬でお腹の中の寄生虫(消化管内寄生虫)のいくつかの種類も駆虫できるという点からも、年間予防(1年中毎月お薬を飲むこと)をオススメしている病院もあります。

※コリー犬種などで薬物の副作用が出やすい場合がありますが、薬によっては安全に使用できるので、まずは病院で相談しましょう!

まとめ

私は今まで東北と九州の動物病院で診療を行ってきました。

「寒い地域には蚊が少ないからフィラリア予防はしなくていい。」なんて聞いたことがある人もいるかもしれませんが、そんなことありません!寒い地域でもフィラリアに感染してしまうワンコはいます。

蚊さえいれば、フィラリアに感染するリスクはあるんです!!

九州で診療をしていた時は、「こんなにいるのか!」と思うほど病院で遭遇していました。

そして、一度感染すると治療が困難な上、末期にはかなり苦しむこととなるので、やはり予防できるものは予防しておくべきです。

数ヶ月予防を忘れただけで命取りになる病気。皆さんの愛犬愛猫のためにも、是非毎年欠かさず予防を行ってあげてくださいね。

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プロフィール

唐野 智美
獣医師として、一般外来診療、シェルター診療(東日本大震災の被災動物保護施設)、救急獣医療に従事。
シェルターの閉鎖を機に、幼少期からの目標であった世界一周ひとり旅に出る。
旅の中ではバックパッカーとして各国の路地を歩き、世界中の人と動物たちの生活を等身大で体感する。
世界中で多くの人々の優しさに触れたことから、日本のことも知りたいと強く思うようになり、約1年間の世界一周を達成したその足で、東北から九州までヒッチハイクで縦断。
帰国後、国内5都市で「人と動物の共生」をテーマとした世界一周動物写真展を開催。
世界一周以前から世界中の動物シェルターを巡り、見学やボランティアを経験するなど、海外の動物事情に精通。
日本に持続可能な動物福祉施設(シェルター)を建て、行政殺処分を減らしていくことを人生最大の目標とし、動物病院での診療と並行して、執筆など動物福祉の向上を目指した活動を行なっている。

Webサイト:Animal Traveler 〜犬と猫を探して世界を歩いてみる〜
http://animaltraveler.com/

Blog:今なにしてる??ー動物&旅ブログー
http://animaltraveler.com/blog/new/

instagram:@satooono
https://www.instagram.com/satooono/

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