旅する獣医師TONOの動物イロイロコラム

【ワクチンの話〜犬編その1〜】ワクチンの種類や接種の時期がよくわからない・・・という方のために。

旅する獣医師TONOの動物イロイロコラム

〜日本では獣医師。世界では旅人。〜

世界一周や日本縦断を経験した“旅する獣医師とうの”さんが、日頃のペットの健康や病気に関するアドバイスから、世界の動物たちのリアルな日常まで分かりやすくお話していくコラムです。
自分のペットの事を知り、世界の動物事情を知ることで、よりペットと暮らしやすい日本を一緒に目指しましょう!


みなさんこんにちは。
旅する獣医師とうのです。

ラーメンが好きすぎて、ラーメンの辞書を買ってしまい、今ではすっかり愛読書となっています。
最近は貝出汁がブームになりつつあるそうですね。
根っから豚骨ばかりの九州人にとっては、貝出汁だなんて、おしゃれすぎて気が引けます・・・

さて、最近、世界中で新型コロナウイルスの話題で持ちきりですね。
そうでなくとも、私たち人間は毎年インフルエンザウイルスや風邪に悩まされますよね。

この世界に数え切れないほどの種類がいるウイルスや細菌。
一見目に見えないですが、驚異的なチカラを持っています。

それはワンちゃん、ネコちゃんにとっても同じで、ウイルスや細菌によってあらゆる感染症が引き起こされ、時に死につながることもあります。

そこで、これらの病原体と戦うための知恵を結集し、人間はワクチンというものを開発しました。

そんなわけで今日は感染症の予防、“ワンちゃんのワクチンについて”お話していきたいと思います。
(ネコちゃんの話はまた次回!)

ワクチンってどんな種類があるの??
そもそもワクチンって打った方がいいの??
毎年打つとか、3年ごととか、いろいろ言われているけど、実際どれがいいの??
副作用が怖いんだけど、大丈夫なの??

などなど。
病院の診察室でよくご質問いただく内容を元にお話していきたいと思います。

ワクチンは打たないといけないの?

早速ですが、ワクチンを打つべきか、打たないべきか。
私の意見を結論から言いますと、

絶対に打つべきです!!

特に幼少期のワクチン接種はとても大切で、子犬、子猫は本当に感染症で亡くなることがあります。
発症したら最後、手の打ちようがないままに亡くなっていく犬猫に出会う事もしばしば。
死んでしまうような感染症は本当に身近にあるのです!!

ワクチンはとっても大事!!

それでは早速ワクチンについて、一緒に知識を深めていきましょう!

※獣医療におけるワクチンについては世界的なガイドラインというものが存在します。
本記事ではWSAVAワクチネーションガイドライングループ(VGG)によって推奨されているガイドラインと、日本獣医学会で推奨している内容を基準に、一般の病院で実際にある私の経験を踏まえてお伝えしていきます。

ワクチンの種類について

犬猫のワクチンには大まかにコアワクチンノンコアワクチンというものが存在します。

簡単に説明すると、コアワクチンは“世界中に存在する致死的な病原体”から身を守るためのもので、世界中の全ての犬猫に接種が推奨されています。
もちろん、これを読んでいるあなたのお家のワンちゃん、ネコちゃんもです。

ノンコアワクチンは“周りの環境やライフスタイルによって感染リスクのある病原体”から身を守るためのワクチンであって、全員が必ず接種しないといけないわけではありません。

下に詳しく載せますが、テストではないので覚える必要はありません!
ただ、今までに家の子にワクチンを接種したことがある方は、ここでまず病院からもらうワクチン証明書を手元に持ってきてみてください。

お家の子が
・何種類の
・どんな内容のワクチンを
・いつ
・何回
打ったのか?

おさらいとして確認しておいてもらいたいです。

・犬のコアワクチン
犬ジステンパーウイルス(CDV)、犬アデノウイルス(CAV)、犬パルボウイルス2型(CPV-2)

・犬のノンコアワクチン(日本)
レプトスピラ、パラインフルエンザウイルス、ボルデテラ等

・猫のコアワクチン
猫汎白血球減少症ウイルス(FPV)、猫カリシウイルス(FCV)、猫ヘルペスウイルスⅠ型(FHV-Ⅰ)

・猫のノンコアワクチン
猫白血病ウイルス(FeLV)、猫免疫不全ウイルス(FIV)、猫クラミジア等

※犬の狂犬病については世界基準ではコアウイルスに分類され、日本では年1回のワクチン接種が法律で義務付けられています。狂犬病以外のワクチンについては、法律による接種義務はありません。

ノンコアワクチンも必要?

では、コアワクチンは全員打つべきとして、ノンコアワクチンはどうなのでしょうか??
(今回はワンちゃんの話を主にしていきますので、猫ちゃんについては次回の記事を参考にしてください。)

ノンコアワクチンの対象となっているパラインフルエンザとボルデテラに関しては、犬のケンネルコフ(犬伝染性気管気管支炎)の原因の一つと言われています。
子犬の時に咳が止まらなくて病院に行き、「よくあるのど風邪」といった感じの診断でお薬をもらった経験がある、という方も多いと思います。

一般の病院で本当によく遭遇するのがこの“ケンネルコフ”

基本的にはお薬をもらえば、時間をかけて治っていきます。
(余力のない子犬さんでは、ごく稀に重症化するのでちゃんと病院にはかかってください。)
ケンネルコフはあらゆる病原体が原因となっているため、このワクチンさえ打っておけば大丈夫!ということではないのですが、できることなら原因はできるだけ対策しておきたいですよね。

また、ノンコアワクチンの対象の一つにレプトスピラというものがあるのですが、こちらも油断大敵!!
死につながる恐れのある病原体です。

私はいつも、診察室でこのようにお話ししています。

コアワクチン(最低3種)は持病がない限りは必ず、定期的に打ちましょう。(期間は後述します。)
狂犬病は法律で決められているので、絶対です。
(重い持病がある場合は打たなくても大丈夫です。その場合はかかりつけの先生に一筆書いてもらう必要があります。)
レプトスピラは家の近くにネズミが生息している可能性があったり、散歩コースに水辺があったり、愛犬とドッグランやキャンプに行きたい、ということであれば、ぜひとも打っておきましょう!
(つまり、日本の環境だと都会の室内犬でない限り、打っておいたほうがいいです。)

ワクチンを打つタイミングについて(ワクチンプログラム)

さて、前項で“絶対打った方がいいワクチン”と、“それぞれの生活環境によって打った方がいいワクチン”があることを説明しました。
次に、打つタイミングについてです。
これはワクチンの内容やメーカーさんによっても異なってくるので、かかりつけの先生と相談する必要があります。

が、先にお話したとおり、基本的には国際機関VGGのガイドライン(日本獣医学会も基本的にこれに則っています。)というものが存在します。
一般の方も閲覧可能ですが、このガイドライン、長いのなんのって!!
もう、あれやこれやと書かれていて、正直一般の方には分かりづらいと思います。

ということで、ここでざっくりと要点だけまとめておきますので、ぜひ参考にしてください。
(今回はワンちゃんについての説明です。猫ちゃんについては次回説明しますね。)

〜子犬〜
・初回:生後6~8週齢(2ヶ月頃)で3種ワクチン(コアワクチン)
・2回目:初回から1ヶ月後(コアワクチン±ノンコアワクチン*)
・3回目:2回目のワクチンから1ヶ月後、かつ4ヶ月齢になってから(2回目と同じ内容)
・ブースターワクチン:生後26週齢〜52週齢(6〜12ヶ月)(ノンコアワクチンの種類によるが基本的に3回目と同じ内容)

〜成犬〜(子犬期にワクチンを打っていることが確実な場合)
・コアワクチン(3種)は3年毎
・ノンコアワクチンは基本的に1年毎(種類による)

〜成犬〜(譲渡などで過去のワクチン歴が不明な場合)
・コアワクチンは1回(ワクチン製造業者によっては2回を推奨している場合もあるので要相談)
・ノンコアワクチンは基本的に2〜4週間ごと2回
・その後のプログラムは上の“成犬(子犬期にワクチンを打っていることが確実な場合)”と同じ。

※ノンコアワクチンは状況により必要かどうかが決まります。将来、外飼い予定、散歩コースに側溝や川がある、キャンプなどに出かける予定のわんこはレプトスピラ予防を、ペットホテルなどの公共施設利用時に、○種類以上のワクチンの証明書が必要と指定されることもあります。

プログラムの意味

子犬期、成犬期についてそれぞれ説明して行きます。

子犬のワクチン接種について

子犬期に注意しないといけないのが、最後のワクチンを16週齢(4ヶ月齢)以降で打たないといけない!というところです。

子犬さんは乳児期には母犬の母乳からもらう“移行抗体”で守られています。
なので、1ヶ月半まではワクチンを打たなくても基本的に大丈夫なんです。(完全人工哺育でなければ。)

そして、この移行抗体が子犬さんの体からほぼ確実になくなっていくのが16週齢頃。
お母さんからもらえるこの素敵な移行抗体ですが、実はワクチンの効果を邪魔してしまい、移行抗体が残っている間にワクチンを打ってもワクチンの意味がなくなってしまうのです。
この移行抗体が少しずつ子犬の体から消えていくタイミングでワクチンを打ち始めることで、体が病原体から常に守られる状態にする、というのがワクチンプログラムの目的です。

この移行抗体の消える時期は個体差があり、容易に調べることもできないので、

・移行抗体が消えるかもしれない6~8週齢でスタートし、
・効果を維持するために1ヶ月ごとに打って、
・絶対移行抗体が消えているであろう16週齢以降で最後のワクチンを打つ!

という風にしないといけないわけです。

成犬のワクチン接種について

さて、次に大人になってからのワクチンについて。

かつて日本でのワクチンプログラムの主流は毎年コアワクチンを打つことでした。
その流れで今も3種以上のワクチン接種を受けているワンニャンたちも多いと思います。

ですが、世界の流れは少し違います。

国際機関WSAVAのワクチンガイドラインではコアワクチンの接種は3年毎を提唱していますし、日本獣医学会も基本的にこれに賛同しています。
コアワクチンは意外と効果の持続時間が長いんです。
逆に、レプトスピラなどのノンコアワクチンは効果の持続時間が短いので、1年に1回の接種が必要となります。

まとめると、成犬のワクチン接種に関して、世界的な流れは

・コアワクチンは3年に1回
・ノンコアワクチン(必要な場合のみ)は1年に1回

というプログラムです。

ただし、先にもお話したとおり、病院や製造業者によって勧められるプログラムは異なりますので、しっかり担当医と相談してください。

次回は、ワクチンの副作用について。

参考文献:WSAVA Global iroirocolumnerinary Community Vaccination Guidelines 2015
(最終アクセス 2020年2月27日)

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プロフィール

唐野 智美
獣医師として、一般外来診療、シェルター診療(東日本大震災の被災動物保護施設)、救急獣医療に従事。
シェルターの閉鎖を機に、幼少期からの目標であった世界一周ひとり旅に出る。
旅の中ではバックパッカーとして各国の路地を歩き、世界中の人と動物たちの生活を等身大で体感する。
世界中で多くの人々の優しさに触れたことから、日本のことも知りたいと強く思うようになり、約1年間の世界一周を達成したその足で、東北から九州までヒッチハイクで縦断。
帰国後、国内5都市で「人と動物の共生」をテーマとした世界一周動物写真展を開催。
世界一周以前から世界中の動物シェルターを巡り、見学やボランティアを経験するなど、海外の動物事情に精通。
日本に持続可能な動物福祉施設(シェルター)を建て、行政殺処分を減らしていくことを人生最大の目標とし、動物病院での診療と並行して、執筆など動物福祉の向上を目指した活動を行なっている。

Webサイト:Animal Traveler 〜犬と猫を探して世界を歩いてみる〜
http://animaltraveler.com/

Blog:今なにしてる??ー動物&旅ブログー
http://animaltraveler.com/blog/new/

instagram:@satooono
https://www.instagram.com/satooono/

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