ペット心理行動カウンセラー佐藤えり奈先生のエッセイ -Wanderful Life-
第1回 問題行動、気づいたもん勝ち!
ペット心理行動カウンセラー佐藤えり奈先生のワンちゃんの問題行動にまつわるエッセイです。
つい数週間前の週末の午後、私はとあるドッグカフェに愛犬フラッフィーと来ていました。
週末のドッグカフェはたいそう賑わっていて、私の後ろの席では、フレンチブルドッグがテーブルの上の飼い主のごちそうを狙って、ぴょんぴょんと後ろ足で飛び跳ねていて、時々クンクンという悲壮な声がきこえてきます。私の左隣の席では、きれいにトリミングされたトイプードルが、お店の看板犬に向かって吠えたてていました。そして、私の右隣の席には、イヌ連れではない外国人が2人で食事をしています。
そのとき、カフェのドアが開き、キャリーを抱えた夫婦が入ってきました。キャリーの中からは、外に出たいのかギャンギャンと耳をつんざくような吠え声が聞こえています。もともと騒がしかった店内が、ついに限界を超えた騒がしさになった瞬間でした。
イヌ連れではない外国人が眉をひそめながら、我慢できないといった様子で友人に言いました。
" Oh my god! That’s so annoying! " (訳:信じられない!めっちゃウザいんだけど!)
その瞬間、私は大学時代を思い出しました。
大学時代、私は行動学を学ぶためにアメリカのミネソタ大学に留学していました。寮に住んでいて、3人のアメリカ人のルームメイトと暮らしていました。
1人のルームメイトの口癖は"That’s so annoying!"
"annoying"は『迷惑』『うるさい』といった意味もありますが、若者風の言葉になおすと「ウザいんですけど~」といった感じです。ことあるごとに、そのルームメイトの口からは「ウザいんですけど~」という言葉が発せられ、私はイライラしていたものです。こんなことでイライラするなんて、心がせまいと思われるかもしれませんが、大学でとっている授業も同じ、部屋も同じ、ほぼ24時間、寝食を共にしていると、毎日「超ウザいんですけど~」(若者風ニュアンスで)と聞かされていると、いくら発言は自由といっても「ほんとこっちがウザいんだけど!」と頭にきてしまうものです。
そしてついにある日、たまりかねた私は彼女に言いました。「ねえ、それって口癖?1日少なくとも30回は言ってるよ!」と。彼女はびっくりした顔で、「うそ?!私、そんなに言ってた?」と答えました。そう、彼女にはその自覚がなかったのです。それが私や他のルームメイトにとって、なかなかの「問題行動」となっていたのにもかかわらず。
話がそれてしまいましたが、私が何を言いたいかというと、「問題行動」というのは第三者に言われて、若しくは本人が認識、自覚することで初めて「問題行動」になるのです。
私はイヌの行動カウンセラーをしています。要は、イヌの困った行動を治療する仕事をしているのです。イヌの、と書きましたが、実際は飼い主のとっている行動によって起こっていることもあるので、一概にはイヌの問題行動とは言えないのですが。
かつての私のルームメイトがそうだったように、あのドッグカフェに入店してきたキャリーで鳴き叫ぶイヌを飼っている飼い主も、何軒かのカフェで出禁をくらって初めて愛犬の行動が問題行動だと自覚するのかもしれません。
後ろ足で飛び跳ねて鳴くフレンチブルドッグの飼い主も、いつかクンクンという鳴き方がワンワンという要求吠えになった時、飛び跳ねて後ろ足を負傷した時、その行動が問題行動だったと気付くのかもしれません。
他のイヌを威嚇しているプードルは、ある日相手のイヌを攻撃して、問題行動だったと気付かされるのかもしれません。
そう、問題行動は、最初はさほど深刻な問題ではなく、「ちょっと困った行動」だったり「かわいいからつい許してしまう行動」といった程度のものです。もちろんそのままずっとその程度でうまくいくこともあるけれど、ふとした瞬間、ちょっとしたきっかけでそれはエスカレートし、「問題行動」になってしまうのです。
こうなると、焦った飼い主は一刻も早く問題行動を治したいと言います。しかし、長年にわたり蓄積され、エスカレートしてきたその行動は、魔法のようにたった1日で直るとは言い切れません。やはり、それなりに時間はかかります。
問題行動をいかに早く、簡単に治すかは、飼い主がその問題行動の可能性に早いうちから気づき、自分の行動を見つめなおすことが、解決への一番の近道です。
本当のことをいうと、問題行動は、起こってからではなく、未然に予防の意を兼ねて子犬のころからきっちりとしつけをしておくことが策なのです。特に、反抗期が始まる生後5ヶ月頃から1才前後は特に注意しておきたい時期です。
子犬の時期を過ぎてしまったからと諦めないでください。イヌはいつだって学習できるのです。あなたが愛犬のその行動を「問題行動」もしくは「問題行動予備軍」だと気づいたその日から。そして、その行動を変えようと努力を始めた日から。あなたが愛犬に対する行動を少し変えると、みるみるうちに愛犬も変わります。
そう、問題行動は気づいたもん勝ち!
今、私の問題行動は「食後に甘いものを食べること」です。数週間後、体重計に乗って、蓄積された脂肪の重みに気付き、死ぬ気で汗水たらしてダイエットをする前に、食後の甘いものを控える努力を少しでも続けていこうと思う。
とても難しいけれども……。
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プロフィール
佐藤 えり奈(さとう えりな)/京都市生まれ
ペット心理行動カウンセラー/行動コンサルタント/CAPBT MEMBER
伴侶動物行動学・養成資格
Diploma in the Practical Aspetcts of Companion Animal Behaviour and Training(英国COAPE公認資格)
ミネソタ大学 理学士
University of Minnesota Twin Cities B.Sc.
生物科学部生態進化行動学科卒業(米国)
幼少の頃から、大の犬好きが高じて犬の行動カウンセラーとなる。アメリカで行動学を、イギリスで犬猫の行動心理学を学び、現在は、関西を中心に犬の心理状態を考慮しつつ、行動学をもとに問題行動を解決するペット心理行動カウンセラーとして活動中。
著書に「イヌの「困った!」を解決する」(サイエンス・アイ新書)
◇関連リンク◇
佐藤えり奈先生のホームページ → http://www.petbehaviorist.info/
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