ペット心理行動カウンセラー佐藤えり奈先生のエッセイ -Wanderful Life-

第15回 本の情報は全て鵜呑みにしない

ペット心理行動カウンセラー佐藤えり奈先生のエッセイ -Wanderful Life-

ペット心理行動カウンセラー佐藤えり奈先生のワンちゃんの問題行動にまつわるエッセイです。


先日、2才になる子どもを持つ友人と話をしていたときのこと。

友人が『この間、初めて子どもと一緒に電車に乗ったんだけど、泣かないかハラハラしたよー。最初はこの子、新しい場所に連れていくと、いつも泣いてたから!』と話しているのを聞いて、「あ、なんだかいつもの行動カウンセリングみたい。社会化問題?」なんて私は考えていました。
ふと、「悩みがあったりするとどうするの?」と友人に聞いてみたところ、友人の答えは『自分の母親に聞いてみたり、あとは本を読んだりするよ。でも、本って全部違うことが書いてあって、混乱しちゃうんだよね』

ああ、ますます行動カウンセリングの気分!

イヌの問題行動に悩んだ飼い主さんがすることは、まずたくさんのイヌの本を読むこと。
その結果、困った行動に悩まされている飼い主さんは、いつも口を揃えて言うのです。

『全部書いてあることはバラバラで混乱してしまって……』

本を読むことは大変良いことだと思います。
しかし、本に書かれていることをそのまま鵜呑みにしてしまわないこと。
まず、どうしてそういったことが必要なのか考えて欲しいのです。

例えば「攻撃性のあるイヌの場合、イヌは自分のことを上だと思っているから、マズルコントロールをして飼い主がリーダーだということを教える」なんて書いてあるからといって、怯えて今にも咬みそうなイヌの口に手を持っていくなんて、自殺行為です。
イヌは自分の身を守るために、飼い主の手に咬みつくでしょう。

以前、私が行動カウンセリングをしたダックスフンドもそうでした。
飼い主は、本で読んだことを試そうとして、最初は手でマズルコントロール、そして咬まれてしまい、でも自分の方がリーダーだと教えてようとしたといって、掃除機を持ち出すようになりました。
その結果、イヌは掃除機を見ると飼い主さんを攻撃するようになったのです。
飼い主さんは愛犬に触れることすら怖くなっていました。

これを読んでいる人は、飼い主さんはどうしてそんなひどいことするの?なんて思うかもしれません。
でも、飼い主さんは50代の普通の優しい女性でした。
イヌの問題行動に悩まされ、追いつめられると、本だけが頼みの綱になり、素直な人ほど、その本の内容を真摯に受け止めようとするのでしょう。
結果、掃除機を持ち出すことはもう止めて、関係を築き直すことができ、今でもたまに飼い主さんからメールが届きます。
つい数ヶ月前のメールには、今ではそのダックスフンドも10才になり、あのとき保健所に連れていかなくて本当に良かったと書かれていました。
こういうメールをもらうと、仕事冥利に尽きるなあと心から思います。

さて、話は脱線してしまいましたが、元に戻って、本に書かれている行動をする前に、状況をしっかりと見て欲しいのです。
イヌが今、何を考えているのか。
恐怖に怯えているイヌがリーダーになろうとしているとは思えません。
ただ、飼い主に怯え、自分の身を守りたいだけなのです。

先日、デンマークのウィベケリーゼ先生のワークショップで興味深い話がきけました。
日本でも出版されている、トゥーリッド・ルーガス著「カーミングシグナル」という本があります。
イヌの様々なカーミングシグナルが写真付きで紹介されていて、イヌのしぐさや気持ちを知るのには、とても勉強になる本です。
しかし、この本がデンマークで流行ったときに、イヌの問題行動も増えたのだとか!
というのは、この本を読んだ飼い主さんたちが、本の情報を鵜呑みにしてしまったから。

例えばイヌにとって、今まで一緒に飼い主さんとソファでくつろいでいるのが至福の時間。
ところが、くつろいでいるイヌがあくびをしたら、それを見た飼い主さんはストレスサインだと思い、一緒にソファでくつろぐのをやめた、とか。
イヌはただ眠くてあくびをしただけなのに!
こういった小さな変化がたくさん起こり、混乱したイヌは問題行動を起こすようになったのでしょう。

このように、本の情報を鵜呑みにすることはおすすめできません。
かならず状況もしっかりみてほしいのです。
私も本を書いている身なので、書き手の気持ちもわかります。
たとえば、イヌが正しい行動をとったら1秒以内に強化するといった表現をよくします。
要はイヌがその行動をとった瞬間です!おすわりならば、イヌのお尻が床に触れた瞬間!
でも、わかりやすく飼い主さんに伝えるために1秒という言葉を使うのです。

よく、イヌがいたずらをした場合、イヌが落ち着くまで5分間無視というように書かれていることがあります。
5分という言葉はあくまでも目安。
これも、イヌが「あれ?どうかした?」と疑問に思っている間でなければ効果がありません。
そうでなければ「なんか飼い主さんどっかいっちゃったけどいっかー。1人であそぼー!」とイヌの気がそれてしまうことがあるからです。
イヌのきもち、そして状況をみたうえで、本に書いてあることを実行しましょう。
そして、本の内容を見ておかしいな?と思うときは、なぜその内容が書かれているのか「なぜ」を探ってみましょう。

ちなみに子育てで悩んでいた友人は、本を読んでも書かれていることは様々なので、結局はその子の様子を見ながら、本をヒントに様々な方法を試したうえで、自分のオリジナル方法で対処しているようです。

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プロフィール

佐藤 えり奈(さとう えりな)/京都市生まれ
ペット心理行動カウンセラー/行動コンサルタント/CAPBT MEMBER
伴侶動物行動学・養成資格
Diploma in the Practical Aspetcts of Companion Animal Behaviour and Training(英国COAPE公認資格)
ミネソタ大学 理学士
University of Minnesota Twin Cities B.Sc.
生物科学部生態進化行動学科卒業(米国)

幼少の頃から、大の犬好きが高じて犬の行動カウンセラーとなる。アメリカで行動学を、イギリスで犬猫の行動心理学を学び、現在は、関西を中心に犬の心理状態を考慮しつつ、行動学をもとに問題行動を解決するペット心理行動カウンセラーとして活動中。
著書に「イヌの「困った!」を解決する」(サイエンス・アイ新書)

◇関連リンク◇
佐藤えり奈先生のホームページ → http://www.petbehaviorist.info/

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