ペット心理行動カウンセラー佐藤えり奈先生のエッセイ -Wanderful Life-
第14回 そのつぶらな瞳の先にはおやつ?それともあなた?
ペット心理行動カウンセラー佐藤えり奈先生のワンちゃんの問題行動にまつわるエッセイです。
私が行動カウンセリングをする際に、飼い主さんに、愛犬について行動問診表に記入をしてもらいます。
その中に、「おやつを与えていますか?」という質問項目があります。
ほとんどの飼い主さんが「はい」という欄に○をつけますが、内容は様々。
トレーニングの最中や、1日の中で犬がおりこうさんな行動をしていたらおやつを与えるという飼い主さんもいれば、1日の中でおやつの時間を決めている飼い主さんもいます。
様々なおやつの与え方があり、問題ないと思っているし、おやつを与えることについて、私は賛成です。
しかし、2点ほど気をつけたいことがあります。
まずひとつは、「おやつがないと言う事をきかない」ということです。
本来ならば、犬の楽しみやトレーニングのモチベーションになるはずのおやつが、ごまかしの材料、おやつで釣っている状態になってしまっています。
おやつがなければ、呼んでもこないし、飼い主さんが言う事にも、おやつがなければ反応をしません。
こういった問題は、おやつを犬に見せないことで解決します。
大抵、おすわりやフセといったハンドシグナルを用いる際に、手の中におやつを持っていることが多いのです。
右手でハンドシグナルを出すなら、おやつは左手に持つとか、着ている洋服のポケットに入れるとか、犬にばれないようにするのです。
あとは、おやつを見せていうことを聞かそうとしないこと。
こういったことで、「おやつがないということをきかない」は解決するのですが、中には、おやつに釘付けでちっとも飼い主さんの方を見ないというケースがあります。
一般的に犬は視線を合わすのが苦手です。
だからと言って、飼い主さんの方を全く見ないようでは、飼い主さんの声に耳を傾けることもできないし、コミュニケーションがとれません。
散歩の最中に対面から犬がやってきたとき、ドッグランで犬の周りに注意を惹く物がたくさんあるとき、あなたが愛犬の名前を呼んだり、「見て」というと、愛犬はあなたに注目しますか?
欧米では「見て」というコマンドを犬に教えますが、日本では教えている飼い主さんに出会ったことがほとんどありません。
本当は、おすわりやフセよりも真っ先に教えてあげたい言葉なぐらいです。
愛犬と目を合わすことで、コミュニケーションもとりやすく、信頼関係もできます。
何よりも、「見て」を教えていると、愛犬が自然と飼い主の顔を見るようになります。
おやつを与えるにあたっての、もうひとつの気をつけたいこと、「おやつに釘付けで飼い主の方を全く見ない」という問題を未然に防ぐこともできます。
『ああ、手遅れだ!見てを教えていないから、おやつの方しか見ないんだ』と思った飼い主さんもご心配なく!
おすわりやフセをしている際におやつを与えるタイミングを少しだけ変えると良いのです。
おすわりやフセをしても、いつもみたいにおやつがもらえないと、犬はふと視線を上げて飼い主さんの方を見るでしょう。
目と目が合ったその瞬間におやつを与えます。
もしも、それでも飼い主さんの方を見ないという子の場合、名前を呼んだりして視線を上げさせてもいいです。(何度か繰り返すと、そのうち名前を呼ばなくても飼い主さんの顔を見るようになります。)
飼い主さんの方を見ることで、良いことが起こる(おやつがもらえた)頻度が上がると、犬は飼い主さんの方に注目することが多くなるでしょう。
ちなみにこれ、人でも同じで仲良しのカップルや夫婦は見つめ合う頻度が多いとか!
さて、最後に補足です。
犬は一般的に視線を合わすのが苦手だと言う話をしました。
よく、犬好きなのに吠えられるという人がいますが、これはその人は、犬が好きなあまり、犬を見つめすぎてしまっていることが多いのです。
そんなつもりはないのに、「ガンを飛ばされた」と思った犬は、『なんだ!なんだ!やるのか?喧嘩なら買うぞー!』と吠えてしまうのです。
そのため、犬同士の行動を見ていると、犬同士が出会ったときには、目をまっすぐに見つめるということはせず、目をそらしがちにして、まばたきをしたりしながら近くに寄っていきます。
目をまっすぐにみつめて近づいていくというのは犬の世界では無作法なのです。
もしあなたが初対面の犬と仲良くなりたければ、まずは視線を外したり、目を細めたり、まばたきをしながら近づくと仲良くなれるでしょう。
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プロフィール
佐藤 えり奈(さとう えりな)/京都市生まれ
ペット心理行動カウンセラー/行動コンサルタント/CAPBT MEMBER
伴侶動物行動学・養成資格
Diploma in the Practical Aspetcts of Companion Animal Behaviour and Training(英国COAPE公認資格)
ミネソタ大学 理学士
University of Minnesota Twin Cities B.Sc.
生物科学部生態進化行動学科卒業(米国)
幼少の頃から、大の犬好きが高じて犬の行動カウンセラーとなる。アメリカで行動学を、イギリスで犬猫の行動心理学を学び、現在は、関西を中心に犬の心理状態を考慮しつつ、行動学をもとに問題行動を解決するペット心理行動カウンセラーとして活動中。
著書に「イヌの「困った!」を解決する」(サイエンス・アイ新書)
◇関連リンク◇
佐藤えり奈先生のホームページ → http://www.petbehaviorist.info/
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